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嘆きの天使 (1930)

DER BLAUE ENGEL

監督
ジョセフ・フォン・スタンバーグ
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4.05 / 評価:33件

木乃伊取りが木乃伊になる話

今回取り上げるのは1930年のドイツ映画『嘆きの天使』。監督はジョセフ・フォン・スタンバーグで、この人が監督した映画の作品レビューを書き込むのは「モロッコ」に続いて2作目だ。マレーネ・ディートリッヒをスターにした映画として、現在も語り継がれる名作だ。
映画の時代設定は1925年から29年までの数年間である。主人公の立場で観ると惨めで救いのない話だが、その中に聖書や道徳の教科書には書かれていない人間の真実が隠れている気がする。この時代、すでに観客は映画を単なる娯楽ではなく人生を映す鏡として観ていたのだ。

1930年はナチス政権が誕生する少し前であり、前年に起こった世界恐慌の影響で世情は不安定だったろう。リアルタイムで鑑賞した人々はどんな感想を抱いたのだろうか。「100万ドルの脚線美」と言われたディートリッヒの美貌にいっときの夢を見たのか。あるいはエミール・ヤニングス演じる英語教師・ラート氏の転落ぶりに自分を重ね合わせたのか。ヤニングスの熱演は凄いが、ディートリッヒからは「演技過剰。ひどかった」と切り捨てられたという。

原作はハインリッヒ・マンが書いた「ウンラート教授」という小説で、ヤニングスはこれを読んで、主人公のラート教授を演じることを熱望した(どうりで演技に異常な熱量があるはずだ)。ハインリッヒ・マンは「ベニスに死す」などでノーベル文学賞を得た文豪トーマス・マンの兄である。これを知ったときはかなり驚いた。
「ウンラート」とは「汚いラート」という意味。教授の勤めるギムナジウムで、教え子たちが厳格な教授をからかって言うあだ名で、映画の中でも使われている。眼鏡の奥の目が意地悪に光ることがあり、教え子に愛情を注ぐというよりは権力を盾にこらしめて生き甲斐を感じるタイプ。これでは生徒からは慕われないだろう。そんな教授が歌手ローラ・ローラ(ディートリッヒ)の色香に迷って、だらしなく篭絡されていく過程が見どころだ。

エミール・ヤニングスはKFCのカーネル・サンダースを思わせる。第1回目のアカデミー主演男優賞を受賞し、無声映画時代に活躍したドイツの名優だ。僕は小さい頃に海外の男優を紹介した文庫本を買って読んだが、ヤニングスがダグラス・フェアバンクスやチャールズ・チャップリンなどと並んで最初の方で紹介されていたので、名前だけは知っていた。
『嘆きの天使』については「ヤニングス作品の中で最大のヒットとなったが、世間の注目はディートリッヒに集まり、既に名優としての地位を確立していたヤニングスにとっては、それほどのプラスにはならなかった」という文章をおぼろげに覚えている。
ディートリッヒはナチスドイツを嫌ってヒトラーの誘いを断り続けたが、ヤニングスはナチス党の支持者になり、ナチスを礼賛する映画に出演したという。僕はかつて「カサブランカ」のレビューで「ナチスドイツ側に立って歴史から消えていったプロバガンダ映画も数多く存在したに違いない」と書いたが、ヤニングスはまさにそうした映画に出ていたのである。

タイトルの『嘆きの天使』は英語でブルーエンジェルといい、ディートリッヒが歌うナイトクラブの名前である。海の底をイメージしているらしく、舞台には魚の飾りつけがあり錨がぶら下がり、楽屋には鮫のオブジェがある。VIP席は船の甲板のイメージで、壁に航海の安全を祈る女神像が飾られている。舞台で歌う歌手たちは人魚というわけか。浦島太郎は竜宮城で遊んでいるうちに年月の経過を忘れてしまったが、ラート教授も似たような運命を辿ったと言えるだろう。

映画の冒頭は貧しい家々がひしめく下町で、掃除婦の女が「Lola Lola」と書かれたポスターを見て、イラストで描かれた女性の真似をしてポースを取る場面である。ポスターの女性は派手な帽子にガーターベルト付きのストッキングを付けて脚線美を強調しており、現在の感覚でもカッコ良く感じる。
ラート教授は自室で文鳥らしい小鳥を飼っている。小鳥に向かって口笛を吹き歌うように促すが、ある朝小鳥は死んでしまう。家政婦が鳥の死骸を無造作にストーブに放り込む。観終わった後で思い返すと、この出勤前の場面が教授の運命を予告する伏線に思えてドキリとさせる。

この「鳥の声真似をする場面」が全体のターニングポイントとなる箇所で登場する。次に出てくるのが教授とローラの結婚式の場面。手品使いの団長(クルト・ゲロン)が二人の前で卵を出すマジックを披露すると、ローラと教授がふざけて鶏の声真似をする。ここが教授にとって人生の絶頂期であったのだろう。そしてクライマックスで披露される声真似は・・・。このレビューでは悲しすぎて書くことができない。「ヒッヒヒーヒー!」という血を吐くような絶叫が、観終わった後もずっと耳の奥にこだましている。

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