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夏の嵐 (1954)

LIVIA/SENSO/WANTON CONTESSA

監督
ルキノ・ヴィスコンティ
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  • みたログ 158

3.66 / 評価:38件

「サディスティックな夢」

  • hoykita194 さん
  • 2009年5月22日 17時19分
  • 役立ち度 14
    • 総合評価
    • ★★★★★

 ヴィスコンティの現実を見る目は、背筋が凍りつくほどに、苛烈だ。
 感覚と理知の、この気が遠くなるような落差は、いったい何なのだろうか。

 この物語の時代背景は、1866年の、オーストリア占領下のベニスである。
 この年、普墺戦争が勃発し、ドイツ統一をめぐる、オーストリアとプロイセンとの覇権争いが起こる。その一環として、イタリアは、プロイセン側の一国として、伊墺戦争(第三次イタリア統一戦争)を戦う。

 その際、オーストリア側の駐留軍として、ベニスに駐留していたのが、フランツ・マーラー大尉である。
 ヒロインは、ベニスの社交界の華セルピエーリ伯爵夫人、リヴィアだ。伯爵は老人であり、年齢差もあって、心の通い合いはない。

 この映画は、ストーリーそのものは、完全なメロドラマである。
 時代や背景設定そのものは、必ずしも、必然性があるわけではない。
 つまり、1866年の伊墺戦争当時のベニス、でなければならない理由はない。

 この映画でのヴィスコンティの主眼は、今まで蝶よ花よともてはやされてきた最上流の貴婦人を、その美と栄華と豪奢の頂点から、奈落の底まで、真っ逆さまに突き落とすことにあるように思える。

 リヴィアの罪は、敵国の将校と不倫の恋に落ちたことにある。それだけだ、といってもいい。そうした設定そのものは、ありふれたものだ。

 ところが、そのありふれた不倫を、ヴィスコンティは、奈落の底まで引きずり落とす。
 なぜか。
 たぶん、これといった理由はない。

 転落させること自体が、目的だからだ。
 そのため、この映画の展開には、どこか理不尽な感覚がつきまとう。
 身から出たさびには、ちがいない。
 しかし、因果応報にしても、なにも、そこまでしなくても、という感覚が残る。
 リヴィアの不倫という軽率な罪に対して、その罰が極端に重すぎるのだ。

 これは、どう考えたらいいのだろうか。

 ヴィスコンティ監督は、ブルックナーに乗せて、誰もがうっとりと陶酔するような、思い切り甘美な夢を、丁寧に、緻密に、華麗に、描いてみせる。
 ところが、その甘美な夢を、描ききった次の瞬間、まるで手のひらを返すように、なぶりものにする。
 それは、偏執的なほどに、サディスティックである。

 ヴィスコンティは、映画の道具立てとして、視覚と聴覚を総動員して、これぞロマン主義だといわんばかりの、華麗なる世界を繰り広げる。
 ところが、そうした世界を背景に語られる物語は、およそロマン主義とは縁もゆかりもない、むしろ正反対の、苛烈なリアリズムである。
 あるいは、リアリズムさえ突き抜けて、偏執に近い嗜虐趣味である。

 それは、破滅への意志としかいいようがない。
 彼の理知は、ひたすら破滅へと向かって、突き進むのだ。

 マーラーには、誠意も思いやりも愛も、かけらすらない。
 その不徳義漢マーラーに、リヴィアは、すべてを差し出してしまった。
 預かったイタリア義勇軍のための資金は、マーラーの愚妹な享楽のために、湯水のように消えてしまった。

 リヴィアは、夫を裏切り、自分自身を売り、イタリアを売ったのだ。
 イタリア義勇軍に対してはおろか、自分自身にさえ、言い訳がきかない。
 この上、どうやって生きていけばいいのか。

 リヴィアには、もう、どこにも行く場所がない。
 すべては、我が身から出たさびだ。

 伯爵夫人リヴィアの、貴族としての、人間としての、女性としてのプライドは、ずたずたに引き裂かれ、ボロ切れのようにうち捨てられる。
 悲劇ということばがうわついて見えるほど、救いのない悲惨な結末だ。
 映像が、芸術的華麗さに満ちているだけに、いっそう悲惨さが際立つ。

 破壊の美学、滅びのロマンティシズムが、妖しい光を放っている。
 この映画は、ヴィスコンティの、華麗にしてサディスティックな夢を語った映画ではないかとさえ思える。

 ただ、リヴィアのために、付け加えておきたい。
 リヴィアは、愛のためとはいえ、差し出してはならないものまで、差し出した。
 しかも、愛した相手は、最低の不徳義漢だった。
 その意味で、リヴィアは、愚かというほかない。

 しかし、愚かとはいえ、リヴィアの愛が、真実だったことだけは、確かだ。
 愛というパンドラの箱をあけたら、あらゆる災厄が狂喜して飛び出し、リヴィアを襲った。
 しかし、たったひとつ残ったものがあった。
 それは、リヴィアの愛の真実だ。
 対象を失い、愛それ自体と化した、リヴィアの愛の真実だ。

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