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逃げ去る恋

逃げ去る恋

L' AMOUR EN FUITE/LOVE ON THE RUN

PG1296

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4.0

自分語りが自分を作る

1978年。フランソワ・トリュフォー監督。校正として印刷所で働いているアントワーヌは妻と協議離婚するが、新しい恋人とはささいなことからすれ違ってしまう。そんな時、初恋の相手と再会したことから、自らの半生を振り返っていく、という話。 いかにもアントワーヌ・ドワネルもの完結編として、かつての映像が引用されて過去を振り返っているが、主人公が書いた小説の嘘が問題になるように、振り返ること自体、その構造がテーマになっている。人は今の自分のことは何もわからないので、過去をいかに振り返るかが自分自身の今を形成していくことになる。または鏡を見ること。いちいち確認しなければ前に進めない。その自己中心性も含めて、人間とは孤独で愛しい生き物なのだ、とトリュフォー監督は言う。 愛のきっかけがだれかが落とした写真をたどって素知らぬ顔で近づくことであるように、真実の愛は存在せず、あるのは既知の何かの引用と横領なのだ。ロメール監督ばりの恋愛コメディに近い雰囲気のなかにも、トリュフォー監督ならではの「自分とは何か」の探究がある。

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