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眠れぬ夜のために

眠れぬ夜のために

INTO THE NIGHT

115

mos********

4.0

唯一の邦題のほうがいい映画

行きずりの女を助けたばかりに、国家間の争いに巻き込まれる不眠症の男のサスペンスコメディ。 国際的な組織に追われるジェフゴールドブラムとミシェルファイファー。 なんとか逃げ延びて、途上でダイナーに立ち寄る。そこでアイスな、クリームな感じのスイーツを食べる。ミシェルファイファーが「ふたつ食べるわ」と言ったのを覚えている。 カートヴォネガットの小説「チャンピオンたちの朝食」には作者自身が書いたイラストがちりばめられている。主人公のキルゴアトラウトが、車窓から眺めた看板にこんなことが書かれていた。 『It is HARDER to be UNHAPPY when you are eating.:CRAIGS ICE CREAM』 (食べているときはなかなか不幸な気分になれません:クレイグズアイスクリーム) サラマクラクランにアイスクリームという曲があって、みじかいバラードだが妙に耳残りしている。 Your love is better than ice creamなんて取りたてていうほどの心象でもないなあ、と思いつつLong Way Downの反復を自然に口ずさんでしまう。 映画と小説と曲、三者には何の関連性もないが、アイスクリームを介して、記憶のなかでひとつになった。 人の世では、アイスクリームを食べることには蠱惑と禁忌がともなう。 それは、食べすぎてはいけないし、体調や体型に憂慮するところがあれば、罪悪感もある。ハーゲンダッツならば嗜好品でもあり、大人買いには、うしろめたさもある。 今日帰ったらアイスクリームを食べよう──と考える一方で、今日は食べるのを我慢しよう──と考える気持ちもある。 しかし長い一日から帰宅して、冷凍庫を開け、パイントをつかんで居間のソファにどかっを腰を下ろしたら、もうおしまいだ。 食べているときはなかなか不幸な気分になれない。 それもさることながら、日常、冷凍庫のなかの存在を忘れていて、フッと何かの拍子に思い出すことがある。 「そういやハーゲンダッツ買ってあったぞ」と。 それがなにかむしょうに幸せな瞬間だったりする。 この映画の「ふたつ食べるわ」を、自らの甘党に絡めて憶えている──という話。 と同時に、当時、中学生か高校生だったわたしは、素っ裸のミシェルファイファーと、彼女が膣に懐中しているシーンを微熱のように憶えている。デヴィッドボウイの使い方もさりげなく、ロジュバディムやイレーネパパス、ジョナサンデミなど、多数の内幕の大物たちのカメオがあった。また偶然であろうが、この邦題はとてもいい。 過剰とばかばかしさとスッとぼけたゴールドブラムが楽しくてずっと記憶にのこっている。

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