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ノスタルジア (1983)

NOSTALGHIA/NOSTALGHIYA/NOSTALGIA

監督
アンドレイ・タルコフスキー
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  • みたログ 538

3.62 / 評価:255件

タルコフスキー最高の癒し

  • すかあふえいす さん
  • 2014年11月7日 13時56分
  • 閲覧数 3613
  • 役立ち度 9
    • 総合評価
    • ★★★★★

タルコフスキーの最高傑作を決めるのは難しい。
俺個人は最高傑作を1つ選べと言われれば「ストーカー」を挙げるが、一番好き・タルコフスキー入門に薦めたいのは何と言っても「ノスタルジア」!
この映画は何時の間にか30分とか1時間経っているような感じで一切退屈しなかった。

タルコフスキー独特の美しき映像世界、幻想的な水面の輝き・・・いや、水面を照らす光というべきか。それに「ストーカー」で幾度にも響いた振動。

霧がたちこめる湖、響き渡る女の歌声、吸い込まれるような長くうねる道・・・。
暗闇を照らす光、過去の記憶を鮮やかに蘇らせる光、暗闇を照らす灯火。灯火は死者を奉る灯にもなる。
劇中のアンドレイは、この映画を撮った数年後にこの世を去ったタルコフスキー自身の分身らしい。
遺作は「サクリファイス」だが、俺は「ノスタルジア」の方がダイレクトに死の匂いを感じた。
「アンドレイ・ルブリョフ」のアンドレイもタルコフスキーの分身として描かれた側面があるのだろう。

「ノスタルジア」のアンドレイは自分の死期をさとり、奴隷にされると解っていても生まれ故郷に骨を埋めるつもりだった。どうせ死ぬなら、故郷の美しい風景を見ながら死にたいと。
彼は助手のエウジュニアという女性を連れ、自殺した作曲家の取材をしにイタリアの地を訪れる。

アンドレイは何故死人に思いを馳せるのか。やはり自分の死期が迫っているからなのか。

ホテルで会話する二人の平和な一時が好きだ。
一瞬何処にいるのかと思うと、部屋の中でイスに腰掛けて談笑する二人の姿が見えてきたり、エウジュニアが階段目掛けてスタートダッシュを決めようとしたら、電気が消えたのにビビッてすっ転んでしまうシーンに和む。何これ可愛い。

ドアの向こうに拡がるアンドレイの故郷みたいな“模型”。
あの場面だけ妙にサスペンスフルでさ。ドアの開け方がまるでスパイ映画の雰囲気。
暗闇から不気味な人形の写真が姿を現すシーンなんか完全にホラーです。

タルコフスキーは戦争映画だのSF映画だの嫌でもサスペンスが発生する作品を幾つも撮っているからねえ。
この映画のアンドレイとドメニコの対峙も、二人の男同士による闘いそのものだ。
「ストーカー」みたいな銃撃も取っ組み合いもないのに、ここまで盛り上げてしまうのだから凄い。

アンドレイは過去の女性とエウジュニアの面影を重ねたりするし、彼女もアンドレイに対してアピールするように大胆な姿を見せたりする。
だが、アンドレイは先の長くない自分の身を彼女に背負わせるような事は出来なかった。
鏡に映る彼の姿は老いているが、アンドレイはそれよりも速く死んでしまうという事を知っている。
訪れたイタリアの温泉に二人が入ろうとしなかったのも、仲が深まるのを避けたからだろうか。
彼女の尻の叩き方だって、愛する女性に対するものというよりは教え子や子供に対する感じだった。
でも俺としては見たかったぜ。エウジュニアのシャワーシーンと風呂に入ったおっぱ(ry
あの黒のローブ?姿は不覚にもドキッとしてしまった。

礼拝堂の聖母のイコンから飛び出す鳥の群。それは現世から解き放たれた魂を現しているのだろうか。
終盤のドメニコは、象の上から死に向って飛び降りる。

やがてアンドレイは一人で旅を続ける。
世界の終わりを待つ狂人ドメニコを救おうとしたのかも知れない。
死期をさとったからこそ前に進もうとするアンドレイ、終わりを信じ込み自分の世界に閉じこもってしまったドメニコの対比。
ドメニコの過去に刻まれた悲劇。遺跡か城砦のように映る街。
終末の直前とも言うべき荒廃したドメニコの住居。雨漏りし放題だ。
壁に刻まれた1+1=1・・・それは一つに溶け合う事を差すのか、それとも・・・。
ドメニコは絶望で自分を燃やし尽くしてしまうが、アンドレイは己の命を賭してドメニコを救おうと彼の“依頼”を成し遂げる。
アンドレイが蝋燭を灯そうとする場面。彼の生命もまた蝋燭の火のように燃え尽きようとしている。歩く力が徐々に弱まっていく姿に。
タルコフスキーは「ストーカー」で銃声とか振動とか“音”を目に見える形で表現してきた。
アンドレイの鼓動・振動が止まろうとしている事も、アンドレイの歩みだけで表現してしまう。実際にアンドレイの心臓の音を我々が聞いたわけではないのにだ。
結局は哀しい結末が待ち受けていたが、我々はアンドレイのように自分の死期と向き合えるだけの魂があるのだろうか。

廃墟のシーンは「ストーカー」を思い出す場面だった。
あそこでアンドレイと会話した少女は何者なのか。アンドレイが持っていた真っ白の本が、黒く燃えていく。
しかしジャン・ルノワールの「ピクニック」といい、どうしてあんな綺麗な場所に煙草をポイ捨てできるかねえ。そこだけは理解できない。いや解りたくも無いね。

詳細評価

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