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灰とダイヤモンド

灰とダイヤモンド

POPIOL I DIAMENT/ASHES AND THE DIAMOND

102

むるそー

5.0

ネタバレなんじゃこりゃあ~っ!

前置きを少々… 1944年8月1日、ナチスドイツ占領下のワルシャワで、ロンドンのポーランド亡命政府指揮下の「ポーランド国内軍」を中心とするレジスタンスが、ワルシャワを目指して進撃中のソヴィエト赤軍に呼応する形で総決起した。 所謂「ワルシャワ蜂起」である。 しかし、独軍の反撃で赤軍の進撃が阻まれたため、レジスタンスは孤立無援状態となって独軍に壊滅的打撃を与えられ、ワルシャワの市街も灰燼に帰した。 翌年1月、漸く赤軍はワルシャワに進駐するが、ソ連の傀儡である「人民軍」政権を樹立させようと国内軍を裏切り、国内軍幹部を逮捕していった。 「生き残った少数のレジスタンスは郊外の森に逃げ込み、ソ連進駐後は裏切った赤軍を攻撃目標とするようになった。1950年代頃まで『呪われた兵士』と呼ばれた森の反共パルチザンとして生き残り、共産政府樹立後も政府要人暗殺未遂などしばらく混乱が続いた。」(Wikipediaより) 些か前置きが長くなってしまったが(失敬)、この映画の主人公・マチェクもワルシャワ蜂起の国内軍の生き残りで反共テロリストの青年なのだが、その出で立ちは、Vネックセーターの上にM43フィールドジャケットを羽織りジーンズばき(!)という、当時のテロリストらしからぬ恰好のファンキーな野郎だ。 流石は「欧州のジェームズ・ディーン」ズビグニェフ・チブルスキーが演じているだけのことはある(笑)。 そして、ワルシャワの地下水道の暗闇に長らく潜伏していた影響で目を傷め、常に色眼鏡をかけている。 世間を色眼鏡でしか見られない彼の象徴のように…。 さて、マチェクは仲間と共に親ソ派の要人・シュツーカを自動小銃で襲撃して車に同乗の青年ごと暗殺するのだが、これが人違いで、ただのセメント工場の労働者(しかも、ナチスの強制労働から解放されたばかり…)だったのだ! 剰え、青年の婚約者の嘆きの叫びを聞いてしまう。 でも、暗殺は上からの命令だから是が非でも実行する必要がある。 ところが、マチェクは本物のシュツーカが投宿しているホテルの酒場の女給・クリスティナに恋をしてしまった。 デスペレートでニヒルなテロリスト変じて「フツーの男の子に戻りた~い!」となってしまったマチェク。 でも、実行部隊のリーダー格・アンジェイは許してくれない。 仕方なく実行を決意し、マチェクと同じ反共テロリストとして逮捕された息子に面会に行こうとするシュツーカをホテルから尾行し、頃合を見計らって拳銃で射殺する。 ところが、翌朝クリスティナから共に逃走することを拒否されてしまい、一人で駅へ向かおうとしたところ、警備の兵隊から拳銃所持を見咎められて銃撃を受ける。 どうにか即死は免れてゴミ捨て場に辿り着き、他人に不条理な死を与えたゴミ溜め野郎として、ゴミ溜めの中で惨めったらしく悶え死ぬ。 冷戦という名のゴミ溜めに投げ込まれた祖国の悲劇そのもののように…。 …とまあ、こういうストーリーだから、近頃の爆発ばかりするハリウッド映画や「泣ける」邦画を見慣れた視聴者からすれば、かったるい映画かも知れないが、この映画が後世の作品に与えた影響は計り知れない。 正義が悪に勝つとか(この映画も共産政府による検閲上は、そのような文脈で捉えられているのだが…)、貧しい人が最後に報われるとか、そのようなお話が主流だった映画というものを、無軌道な若者が死んだり破滅したりするというヌーヴェル・ヴァーグやアメリカン・ニューシネマへの流れを作った先駆け的作品だ。 それに名シーンの数々。 閉じられた教会の扉へ倒れこむ「間違えられた男」の銃創から吹き上がる炎… ホテルの酒場で戦友を偲びながらウォツカに点された火… 逆さ吊り状態のキリスト像の前のマチェクとクリスティナ… 唐突に現れる白馬… 自身を撃ったマチェクに捕らわれの身の息子を思うかのように抱きつくシュツーカ…と同時に背後に撃ち上がる終戦祝いの花火… 白いシーツに抱きついて血に染める瀕死のマチェク… そして、ゴミ溜めでのマチェクの悶え死に… 閉じられた教会の扉や逆さのキリスト像は、ナチスやソ連、自国の政府から人民を守ってくれない教会に対する不信感の表れだろうか? そして、白馬はヨハネ黙示録に登場する「白い馬」で、共産政府(=反キリスト)による黙示録的な受難の始まりの象徴だろうか? まあいずれにせよ、この映画は日本公開当時、60年安保闘争に「挫折」した若者たちに絶大な影響を与え、彼らが映画監督やテレビマンとなり、この作品の影響の濃い数多くの映画やテレビドラマが制作されるに至った。 昭和の任侠映画やテレビドラマを数多く見ているけどこの映画は初めて…という人が見れば、間違いなく既視感を覚えるはずだ。(特にラストシーンは、有名な刑事ドラマの殉職シーンを思い起こさせるだろう) タイトル自体も様々なコンテンツに引用されているし、特に日本にとって記念碑的作品?…(笑)

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