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灰とダイヤモンド

灰とダイヤモンド

POPIOL I DIAMENT/ASHES AND THE DIAMOND

102

dtm********

3.0

ネタバレ第二次大戦後のポーランド

 アンジェイ・ワイダ監督の初期の作品であり、ポーランド三部作の一角をなす。ワイダ監督はほぼ一貫してポーランドの現代史を映画化してきた。  同国の現代史は多くの変遷を経ている。大戦前にはナチス・ドイツに占領された。有名なアウシュビッツ収容所は同国内にある。その後、連合国によって解放されるが終戦前にはソ連の支配下に置かれる。戦後の東西冷戦は既に終戦直前に始まっており、東欧諸国はやがてソ連の傘下に置かれることとなる。  ワイダは様々な形で戦後ポーランドの運命を映画いてきた。それら作品では、共産主義化の過酷な独裁制に対する批判の精神が色濃い。  本作はドイツが無条件降伏した1945年5月7日の1日の物語である。  主人公のマチェックは、抵抗組織の活動家だ。もとはナチス・ドイツに対するレジスタンス活動に始まった組織は今やソ連への抵抗組織となっている。先頃読んだチャーチルの「第二次世界大戦」にも、終戦間際のソ連の東欧侵攻が述べられている。東欧諸国は軒並みソ連の傀儡国家となり、西側への防波堤(鉄のカーテン)を形成する。ドイツの支配から逃れ、今度はソ連の支配という歴史に翻弄された国家、ポーランドとはまさにそんな運命を辿った国家であった。  ワイダはそんな祖国の歴史を映画に焼き付けてきた。国家・社会の現代史を描き続けた映画作家としてはギリシアのテオ・アンゲロプロスに共通する。強い自国史の検証に拘り続けた作家であった。  本作には後年の彼のテーマが集約されているといえる。主人公のマチェックはその象徴的人物だ。  彼はレジスタンスとして祖国の為に活動する。しかし共産党幹部の暗殺に失敗して、自分の使命に疑問を抱く。彼は酒場で働くクリスティーンという女性と恋に落ち、新しい人生を模索し始める。  題名にある「灰」とは戦争で廃墟と化した祖国のことであり、「ダイヤモンド」はその廃墟に埋まる希望だ。マチェックにとっては愛ということになるのであろう。  ただ映画の中盤は、ドイツ降伏に酔いしれる戦勝気分が支配する。もっともそれはその後のソ連支配という別の拘束に変わるのだが。  このテーマが、宴会のシーンに描かれる。この部分は、マチェックの悲劇に対して皮肉に満ちた喜劇であり、古典的な演劇における「コミック・リリーフ」ともいえる部分となっている。  作劇的にはよく考えているが、果たしてこれは今どきの映画の空気に慣れている観客にはどうだろう。どこか古めかしくて、落ち着きの悪い。古い時代らしい映画の世界観にはやや違和感を覚えなくもない。  もっとマチェックの心に寄り添えなかったのか。そんなところが気になり、あまり感情移入できない序盤から中盤は、筆者にはかなりしんどいところだった。あの時代の演出と割り切るべきだろうが、だ。  時代の違いはどうしても否定できない。しかしリアルタイムで時代色を画面に焼き付けたことだけでも、貴重な歴史的証言となる一作であろう。ラスト付近の、宴会でのダンス・シーンの皮肉は秀逸である。祖国の作曲家ショパンを、あんな風に演出するというのも。

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