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錨を上げて

錨を上げて

ANCHORS AWEIGH

139

rup********

5.0

ネタバレパスターナックの明朗なミュージカル大作

ジーン・ケリーとフランク・シナトラの演じる水兵が名コンビぶりを発揮しているのがとりわけ素晴らしい作品です。 ジョー(ケリー)は、常に前向きでハッタリもきかせて積極的に行動する自信家でありながら、友情に厚く優しい心の持ち主。一方で、クラレンス(シナトラ)は、自分からは積極的に前に出ず女性にも奥手でシャイな性格という印象がある反面、ジョーの人の良さに頼ってしまおうとするちゃっかり屋でもあって、この2人の関係が絶妙なバランスで成り立っているのを観ていると本当に楽しくなってきます。 ケリーとシナトラはこのあと「私を野球につれてって」と「踊る大紐育」でも共演していますが、これらの作品ではジュールス・マンシンが加わりトリオを組むような形になっていることもあってかこういう対照的な性格描写はかなり薄まってしまっているので、2人のコンビの良さを堪能できるのはやはり本作が一番ではないかと思います。 ただ、ストーリーがスムーズに流れていかないのは、ケリー&シナトラの水兵コンビのほかに、ヒロインであるキャスリン・グレイスンと名ピアニストのホセ・イトゥルビの方にもかなり重点を置いた構成によるものかなという気がします。 これは、製作者のジョー・パスターナックが好んで用いる『歌うヒロインと音楽界の大物(or人気アーティスト)』を組ませるという趣向・・・ディアナ・ダービン&レオポルド・ストコフスキー(「オーケストラの少女」)、ジューン・アリスン&ハリー・ジェームス(「姉妹と水兵」)、キャスリン・グレイスン&ローリッツ・メルキオール(「嘘つきお嬢さん」)、ジェーン・パウエル&ホセ・イトゥルビ(「Holiday in Mexico」)など・・・を本作でも使っているからで(キャスリン&イトゥルビは本作の前に「Thousands Cheer」でも組んでいます)、歌手志望のスーザン(キャスリン)が夢見るイトゥルビのオーディションを実現させるために水兵コンビが奔走するという方向へ話が流れることによって、全体的にはちょっと緩慢な仕上がりになったような印象を受けます。 もっとも、ジーン・ケリーは「サマー・ストック」でもそうですが、本作のようなゆったりとした明るい雰囲気の中で楽しげに歌い踊っている姿のほうが、野心的なナンバーで勝負するアーサー・フリード作品の彼よりも何となく親しみが湧いてしまうのです。 また、監督が観客の目を楽しませる画面作りに定評のあるジョージ・シドニーだけあって、冒頭の海軍の『錨を上げて』の演奏シーンからして水兵たちに錨マークや”NAVY”の文字を作らせて観客へのサービスをしていますし、有名なアニメのジェリーとケリーの見事な合成ナンバー”The Worry Song”はCG全盛の今観ても素晴らしい出来です。 イトゥルビのピアノ演奏でも透明な鍵盤を使って下から撮影し、指使いをより生き生きと見せるような工夫が凝らされている点も目を惹きます。 ケリー&シナトラのコンビでは、”We Hate to Leave”と”I Begged Her”の陽気に歌って踊るナンバーのほかに、スーザンを勝手に『凄腕の女』に仕立ててしまう”If You Knew Susie”が印象的。”S・SU・SUS・・・♪”と歌う2人の掛け合いは最高です。 個々のナンバーでは、ケリーがコスチュームを纏った盗賊となって踊り、スタントなしでの伸びやかな跳躍をみせる場面や、メキシコの少女と踊る”The Mexican Hat Dance”が印象に残るほか、シナトラの歌う”I Fall in Love Too Easily”はぐっと甘い雰囲気に浸れます。 さらに、クラシック調の曲を好んで使うパスターナック作品らしいナンバーとしては、キャスリンが美しいソプラノで歌いケリーのハートを捕らえる”Jealousy”、客演のカルロス・ラミレスが歌うロッシーニの『セヴィリアの理髪師』より”私は町の何でも屋”、イトゥルビの弾く『ザ・ドンキー・セレナーデ』、ハリウッド・ボウルで少年少女たちとの20台のピアノ演奏によるリストの『ハンガリー狂詩曲第2番』(「オーケストラの少女」では、失業楽士たちの熱のこもった演奏に思わずストコフスキーの指が動くハイライトシーンで使用された曲)、キャスリンがオーディションで歌うチャイコフスキーの『弦楽セレナーデ ハ長調 Op.48 第2楽章』のワルツに歌詞をつけた曲などがあり、目先の変わったナンバーをいろいろ楽しむことができます。 特に、イトゥルビがチャイコフスキーの『ピアノ協奏曲第1番 第1楽章』を弾いているところに居合わせたシナトラが原曲を知らずにフレディ・マーティンの曲だと言って、マーティンが原曲をアレンジした”Tonight We Love”を歌ってしまうところでのズレたやり取りは面白く感じられました。 本作は、水兵が主役であっても軍隊調に傾かず、日頃よく耳にする楽曲を多く用いているので、誰もが気軽に観られるミュージカル映画としてはトップクラスの作品といえるのではないでしょうか。

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