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バウンティフルへの旅

バウンティフルへの旅

THE TRIP TO BOUNTIFUL

106

一人旅

5.0

おばあちゃん、旅に出る

ピーター・マスターソン監督作。 1940年代のアメリカを舞台に、息子夫婦と暮らす老女の故郷への一人旅を描いたロードムービー。 小粒ですが良質なロードムービーの秀作。テキサスの都会で息子夫婦と暮らす老女が、20年ぶりに生まれ育った故郷バウンティフルを目指し旅に出る…という“おばあちゃんの一人旅”を、道中出会う親切な若い女性との交流や、息子・嫁との関係を織り交ぜながら描いています。 おばあちゃんに居場所はありません。嫁が姑にいびられるという話は良く聞きますが、本作では姑が嫁に一方的に意地悪されます。讃美歌が大好きなおばあちゃんに「讃美歌は歌わないで!」と命じたり、ただ黙っているだけのおばあちゃんに「ふくれっ面しないで!」と怒鳴ります。さらには、おばあちゃんの年金を横取りしようと企む意地汚い嫁です。肝心の息子は完全に嫁の言いなりで全く役に立たない。自分の母親が散々意地悪されているのに何も言い返せない気の弱さ・事なかれ主義の情けない息子です。 そうした息子夫婦との同居生活に嫌気が差したおばあちゃんは、ついに故郷バウンティフルを目指し家から飛び出します。ここからおばあちゃん主役のロードムービーが始まるのですが、駅で出会う若い女性との年齢の垣根を越えた交流が何とも温かい。おばあちゃんの孤独な心情を察した女性が示すちょっとした優しさが印象的ですし、女性相手に自分の過去をしみじみと語るおばあちゃんの姿には人生の終盤を生きる人間だからこその哀愁と郷愁が漂います。 辛い現実から逃れるように旅に出たおばあちゃんは故郷バウンティフルに辿り着きます。ただそこはおばあちゃんが思い描いていた故郷とは異なり、人が都会に流出した後の寂れた、廃墟同然の故郷。それでも、故郷バウンティフルの土地・自然・空気は変わらないし、そこでの煌びやかな想い出はいつまでもおばあちゃんの心の中で生き続ける…。一度原点に立ち還り、しっかり前を向く。本作は過去に執着するおばあちゃんの、未来への新たな歩み出しを希望的に描いた作品なのです。 主演は名優ジェラルディン・ペイジ。本作の演技により61歳にしてキャリア初のアカデミー主演女優賞に輝いています。若い女性を演じたレベッカ・デモーネイの清純な演技も出色です。

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