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白鯨

白鯨

MOBY DICK/HERMAN MELVILLE'S MOBY DICK

116

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5.0

ただの復讐ではない

1956年。ジョン・ヒューストン監督。ハーマン・メルヴィルのいわずと知れた世界的な名作小説を映画化。捕鯨船に乗ろうとする青年イシュメイルは巨大な白鯨モービーディックに片足を食いちぎられたエイハブ船長(グレゴリー・ペック)の船に乗ることになる。白鯨への復讐に燃える狂気すれすれの船長に船員たちも引き込まれていき、やがて白鯨との対決を迎えるという話。原作のすばらしさをヒューストン監督がそつなく描いています。 すばらしいのは、やはりエイハブ船長。白鯨への執念は「クジラごときが俺に挑戦しやがって」というものであり、白鯨そのものよりも白鯨(つまり動物、自然なもの)が自分にチャレンジしてきたこと自体に、なにか自分を脅かすものを感じているのです。しかも「自分でも止められない何かの力が俺をうごかしている。おれは機械のようだ」というように、復讐してハッピーにはとてもなりそうになく、より大きななにかの犠牲になる予感を抱いている。そういえば、船に乗る前に不吉な男の予言「一人を除いて全滅」は実現してしまうのですが、「何か至高のもののために自分の死さえいとわない全滅の思想」のことをサディズムというのだった。エイハブ船長は明らかにサディストですが、自身のサディストぶりを折に触れて哀しむあたり、まだ人間のかけらが残っていたらしい。 サディストの船長の犠牲者だからこそ、船員たちは自らすすんで全滅してしまうのであり、その典型が、最初はヒューマニズム(人道的、法的、宗教的)からことごとく船長に反発していたのに、最後の瞬間にまっ先に船長に続くスターバックです。よくできた話だなぁ。 白鯨のダイナミズムは当時としてはよくできているし、むしろカットのつなぎですばらしい迫力を出しています。冒頭、船を模した教会でクジラに飲まれたヨナの話を説教するのがオーソン・ウェルズ。原作も映画も、神に服従していくヨナとは正反対の人間を描いている、というのがポイントです。

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