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パサジェルカ

パサジェルカ

PASAZERKA/THE PASSENGER

61

ter********

1.0

ネタバレ未完成過ぎて実験映画よりも消化不良…

■アンジェイ・ムンクの遺作。アンジェイ・ワイダの同世代(3歳年下)で、ポーランド映画の旗手と期待されながら、自動車事故により31歳で早逝した。未完のフィルムとスチール写真を編集し、ナレーションを加えてまとめたものだ。 ■アウシュビッツ収容所を舞台にしたホロコースト映画のひとつ。看守リザは自分の職務に迷い、ユダヤ人囚人マルタに好意を注ぐことで罪を贖おうとする。しかし、いかに手を差し伸べようと、マルタの不信と拒絶に直面する。戦後、リザはアメリカで結婚し、祖国には10年も帰らなかったが、帰国の豪華客船でマルタに再会する。そして、隠していた過去を夫に語り始める。 ■映像は良く作り込まれている。背景でももうひとつの小ドラマが進行していて、空間に厚みがある。たとえば、主人公が語る間、囚人が裸で鞭打たれる様子が遠景で写し込まれたりする。また、隠喩表現も巧みだ。煙はユダヤ人処刑を表現するし、ガス室送りの子供が見張りの軍用犬を撫でるシーンは、逆に残酷さを浮き彫りにする。名作の予感はある。 ■しかし、映画としては未完成だ。リザの葛藤は鮮やかだが、なぜマルタにそれほど執着するか、踏み込まない。マルタはリザに心を閉ざし、恋人を愛し続けるが、その表情は頑な一本調子で、心理の奥底や機微は描かる間がない。マルタとリザの対立に、個人的なドラマがあるのか、それとも単純に「ナチvsユダヤ」の問題なのかも、明かされない。戦後現在のリザと夫のサイドストーリーも語られない。あれっ、と思う間にエンディングロールが流れて、終わってしまった。 ■商業映画としては評価以前だ。映像やスライドの組み合わせは、物語をシャッフルする実験映画の一種のようにも見えるが、創作理念の存在しない「前衛性」には意味がない。監督の意図を拾おうにも、遺されたパズルのピースが少なすぎて、空しい。ホロコースト映画は、今やひとつの映画ジャンルとして確立し、いかに題材が深刻でも秀作もあり駄作もある。本作は作品として成立しないほど、尺の足りない未完作だ。 ■アンジェイ・ムンクの支持者たちが記念碑として遺作を公開する意義は分かる。その上映を応援する映画人の心意気も否定はしない。しかし、私は、同じ時間と金があれば、別の映画を見た方が良かったと後悔した。業界人が何と言おうと、この「王様は裸だ!」と言わざるをえない。商業映画としては、一般の人にはとても勧められない。

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