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ハリーとトント (1974)

HARRY AND TONTO

監督
ポール・マザースキー
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  • みたログ 571

3.96 / 評価:206件

最高のロードムービー

  • bar***** さん
  • 2017年1月24日 1時10分
  • 閲覧数 1930
  • 役立ち度 3
    • 総合評価
    • ★★★★★

年寄りと猫の旅物語。ロードムービー。何故こんなにしんみりとした、味わい深い、温かな気持ちにさせてくれるんだろう。

愛猫トントは主人公ハリーとともに歩む。彼自身も老猫で、非常におとなしく、また目立ったキャラクター性を持っていないが、常に存在感をもって映像を花咲かせてくれる。この自然な造形が心地いい。猫は置物のようでもあるし、強い意志を持っているようにも見える。

ハリーは老境に入ってから住んでいるマンションを追い出される。駐車場にするというのだ。断固抗議するが結局追い出されてしまい、近くに住んでいる息子夫婦のところへ行くが、家族に厄介がられてしまう。そしてハリーはシカゴにいる娘を頼っていくが……

飛行機は荷物検査で職員ともめて、バスはトントの便所でもめて、仕方なく車を買って……と、さんざんな目にあうが、ここからがこの物語の本尊である。ハリーは旅の途中様々な人に出会う。家出娘、孫、そしてかつての恋人(ボケ始めているが超美人!)、実の娘に、老人の健康食セールスマン(この人もすごい経歴だ)、高級娼婦やイカれたギャンブラー、年寄りのインディアン(逮捕された留置所で!)、そして希望を失いかけた息子に、ユダヤ人のおばさん……ハリーはどうして絶望しないんだろう、とずっと考えていた。そして、どうして旅の間に出会う人々は、誰も彼もが暗闇と傷を抱えていて、それでいながら温かみがあるんだろう、と。

アメリカはあけすけな国だ。だけど、決して住みやすい国ではないように見える。個人個人は痛みを抱えていて、悩んで、苦しんでいる。だけど、どこか心優しいというか、不器用なんだけど人情があるような気がする。そして驚くほどバイタリティがあって、カッコつけずに生きている。実際カッコ良くはない。だけど土や草の匂いがするというか、素のまま人生を歩んでいる。

旅をすればその国、その里の人たちの性格が分かる。陽気だったり、暗かったり、あっけらかんとしていたり、神経質だったり。ハリーとトントの旅は、アメリカという国の人々を教えてくれる。こういうのが旅の醍醐味というんだろう。

だけどもっと大事なことに触れよう、それはハリーとトントだ。ハリーは妻に先立たれた。顔はすごくカッコイイ。歌手を目指していたというのもわかる気がする。教師として生きてきた。強情な一面もあるが、説教くさくはなく、酸いも甘いも知っている、大人の中の大人、そして心優しい老人、といった感じだ。老人なんだけど、いいキャラクターだと思うのは全然老人らしくないというか、重苦しさがなく、偏見もないし、習慣に支配されているわけでもなく、人生を達観しているわけでもないということだ。誰かを恨むわけでもなく、不運をかこつこともしない。友と死別しても、じっと胸に悲しみを秘め、泣きわめいたりもしない。誇りと、優しさと、揺るぎない我慢強さと、他者への敬意と、人生の希望を抱いている。ただ、我々はハリーがスーパーマンではないと知っている。彼は老人で、60年以上の記憶を胸に生きているからこそ、本来は重い荷物を背負っているのだと知っている。

年寄りは、自分が若かった頃の話をしたがるものだ。テレビがなかったとか、食い物がなかったとか、戦争があったとか、昔は良かったなとか。若い人間はそういう話にうんざりしてしまう。イメージできないからだ。だけど、ふと彼らの顔に、昔の男前だった名残りとか、美人だった印象とかを見つけると、昔の写真とかを見てしまうとまさにだが、現実と過去がいわば繋がってしまうのだ。そして失われた過去が今ここで現前しているような気がする。そのとき、彼らにも若いころがあって、真剣に生きて、そして何年も苦しんだ経験があることを初めて理解できる。

この映画に出てくるハリーは過去にとらわれてはいないが、間違いなく彼の背後には失われた家族や、友人たちの影がある。それでもバイタリティをもって明るく生きていく姿に感動してしまう。トントもそうだ。最後のネタバレは言えないが、彼の生き様が、ふんわりとした温かな夕焼けのような、美しい空気となって飽和しているのを感じる。そしてラストは完璧だ。ハリーとトントの結果があれだ。素晴らしいラスト。人生の楽しさを心から理解できるような。

もちろんこれは老境に入った家族たちにも見せてあげたいが、若い人たちこそこの映画を見るべきだと思う。どうやって年をとっていけばいいのか、ハリーとトントは最も優秀な案内役になってくれるだろう。

詳細評価

物語
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演出
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音楽

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