ここから本文です

ヒンデンブルグ (1975)

THE HINDENBURG

監督
ロバート・ワイズ
  • みたいムービー 9
  • みたログ 174

3.09 / 評価:74件

感嘆から絶叫、そして嗚咽に

  • カナボン さん
  • 2010年1月23日 0時40分
  • 役立ち度 18
    • 総合評価
    • ★★★★★

20世紀の悲劇の大事故として世界的に有名な事件は何と言ってもタイタニック号の海難事故ですが、それと同じくらいに有名な事件が1937年5月6日に起こった巨大飛行船ヒンデンブルグ号の謎の爆発です。今なお、その原因は不明で、陰謀説、欠陥説、漏電説など諸説が挙げられています。今日はこの一種ミステリアスな大事故を大胆な仮説に基づいて作られた70年代パニック映画の一本のレビューです。

お題目は「ヒンデンブルグ」です。

全長245mもの巨大な銀色の船体。それが悠々と大空に浮かぶ様は壮大でため息が出るほど。北大西洋横断の長旅の悲劇の終着駅に到着するまで突き進むヒンデンブルグ号の雄姿がまた哀しさも感じさせる。名匠ロバート・ワイズの見事な演出の手腕が存分に振るわれています。

「刑事コロンボ」で有名なリチャード・レビンソンとウィリアム・リンクの脚本コンビの作品。彼らはこの後の「ジェット・ローラー・コースター」でもいい仕事をしていました。謎のヒンデンブルグ号爆発事件に彼らが盛り込んだシナリオはいわば陰謀もの。

ナチスドイツのプロパガンダ的な存在であったこの飛行船、その失墜を目論んでの爆破工作ということが大筋。ヒンデンブルグが狙われているという噂を捨て置けないドイツ軍はフランツ・リッター大佐を同乗させ、警戒体制を取らせる。

船体にしこたま水素を詰め込んだ巨大な船体。発火物の持ち込みは禁止、手荷物は厳重な検査が仰々しく行われ、金属性のステッキは火花の危険防止のために絶縁テープを施すほどの念の入れよう。やがてフランクフルトを発つヒンデンブルグ。曰くありげな乗客たちに目を光らせるリッター大佐。前半は爆破を企てる犯人探しの意味合いが強く感じられる。

リッター大佐は歴戦のドイツ空軍の勇士。しかし最近のヒトラー、そしてナチスの強引な政策に疑問を感じ始めている。そんなリッターを演じるのが反骨魂の役者といえばこの人、ジョージ・C・スコット。自分が納得できる映画でなければどんな厚遇も一蹴し、果ては半ば慣習化していたアカデミー主演男優賞までも蹴っ飛ばした頑固なオヤジです。ところが本作のリッター大佐役は結構気に入っていたご様子、静と動のコントラストを巧みに演じ分ける名演は必見です。

爆破犯人のヒトラー青年隊出身でありながら、その総統の所業に疑問を感じていた青年ベルト。彼の目論見を知りながらもベルトに亡くした息子の面影を見てしまうリッターの心理描写が巧い。このような繊細な演技を魅せるスコットは勿論流石ですが、ベルトを演じるウィリアム・アザートンがまた良かった。この人、そう「ダイ・ハード1&2」のあの俗物リポーター役の人なんですよね。とにかく印象に残る演技をする俳優です(笑)。

そんな彼らをつけ狙うゲシュタポ役のロイ・シネスがまた不気味で最高。どことなく6代目ボンド役者ダニエル・クレイグっぽく見える。
しかしその他の登場人物たち、「奇跡の人」のアカデミー女優アン・バンクロフト、ロッキーを支えた名トレーナーミッキー役のバージェス・メレディス、そしてチャールズ・ダーニングやギグ・ヤングといったスターを使っている割にはいずれの描き方も淡泊。この点がちょっと残念。

しかしこの映画の見せ場は勿論ラストの爆発炎上シーンです。アカデミー特別視覚効果賞と特殊音響効果賞を受賞した本作、突如画面がモノクロに切り替わる。実際の爆発炎上事故のニュースフィルムを効果的に盛り込み、モノクロ画面がドキュメンタリータッチを感じさせる。パンフレット掲載のスチールはカラーでしたが、あえて本編でモノクロにしてリアリティを出したワイズ監督の試みは見事的中。炎上する飛行船から飛び降り、一度はその熱に気を失ったボーイが、タンクの爆発により水を浴びて目を覚まし、逃げのびるシーンは実際の出来事。爆発の閃光で夜の帳が一瞬で真昼の明るさに変わる描写など、見逃せないシーンの目白押し。

悠々と大空をいくヒンデンブルグ号の姿をバックに事故の実況放送のアナウンスが流れる。科学の粋を結集した大飛行船の雄姿に声を弾ませていたアナウンサーの声の壮絶な変化。感嘆から絶叫、そして嗚咽に変わる。最後にはもう言葉も出ずに泣きじゃくるのみ。当時の地獄絵図の悲惨さをこれほど雄弁に語るものはありません。

死者36名、ヒンデンブルグ号が燃え落ちるまでわずか32秒。
この大事故以来、やはり飛行船は危険な乗り物ということになり急速に衰えていき、やがてはスピード性のあるジェット旅客機にとって代わられていく。ヒンデンブルグのこのような背景、本作のパニック映画ブームの終わりと妙に符合します。ディザスター映画が「ジョーズ」以来の動物パニック物に代わられるように。

これも隠れた傑作の一本だと思います。

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

イメージワード

  • スペクタクル
  • ゴージャス
  • パニック
  • 恐怖
  • 知的
  • 絶望的
  • 切ない
このレビューは役に立ちましたか?
利用規約に違反している投稿を見つけたら、次のボタンから報告できます。 違反報告
本文はここま>
でです このページの先頭へ