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フェイズ IV/戦慄!昆虫パニック (1973)

PHASE IV

監督
ソウル・バス
  • みたいムービー 5
  • みたログ 54

3.09 / 評価:35件

選ばれた者たち 或る私を誘ひし女性に捧ぐ

  • 真木森 さん
  • 2014年7月5日 18時07分
  • 閲覧数 786
  • 役立ち度 7
    • 総合評価
    • ★★★★★

あれは忘れもしない1999年の3月。WOWOWでSFパニック系映画を特集していたのですが、「ソール・バスが残した唯一の長編映画」という謳い文句でこれだけは見なくてはと意を決して臨んだのです。それが何とも言えず凄かった。冒頭から哲学的なモノローグが流れ、超接写で蟻の生態が映し出される。巷間『2001年宇宙の旅』からの影響が指摘されていますが、私もすぐにそれと分かりました。蟻が作る塚は「モノリス」そっくりだし、途中で機械が故障して点灯し続ける赤ランプはHALのそれとそっくりですしね。その辺りは町山智浩さんの『トラウマ映画館』や添野知生さんのWOWOWオンライン「Talkin`シネマ」に書かれた解説が詳しいですから参照してみてください。1つだけ付け足すと、「生物的に全く無駄がない完璧な生命だ!」という蟻への言及はそのまま『エイリアン』にも引き継がれ、色々なスタッフが本作からそのまま継承されたことが分かっています(ノンクレジットですが『エイリアン』タイトルデザインはソール・バスなんですよ)が、極めつけはあの映画における“マザー”。HALを継承するものとして有名ですが、あの声は本作で奇矯なキャラを演じて一瞬の登場だけなのに鮮烈な印象を残したお婆さん、ヘレン・ホーントンその人なのです。何というミッシング・リンク!
 ただしそれ以上に私は本作のホッブス博士の姿に『白鯨』エイハブ船長の影を見ましたね。最初は優雅に登場したかと思いきや、すぐに蟻との対決にマニアックな情熱を注ぎ始める。そもそも「イエロー」や「ブルー」を使いたいがための赴任のようにも見え、本部からの指令にも適当な報告を返して現地にとどまろうと画策する。農家の人達が3人も死んでいるというのに「避難勧告に従わなかったからだ」って冷淡な対応をしている時点で完全に常軌を逸し「エイハブ化」し始めていますね。これだって「あんたが塚を爆破して蟻たちを挑発しなければ農家の人達が襲われることもなかったんだろ!」って後ろ指指されまくりなのですが、まあ米国軍産複合体に関わる輩の論理ってこういうものでしょうね。『白鯨』は死神たるモビー・ディックの方が「善」を体現した神々しい存在であり、エイハブ船長の方が「人間の邪悪さ」を体現している存在であると次第に読めてきます。そしてそれと同じように本作も、蟻たちの方が高貴で同朋意識に篤い「大智」を顕現しており、対するホッブズ博士は「人類の傲慢さ」を象徴する存在で、やがて「有能感への偏執的信仰」「それが打破され愚かにもあがこうとする卑小な人物」へと堕していくように描かれます。蟻に刺された手がどんどん腫れ上がり、精神も錯乱してくる。一匹の蟻を追いかけ回して器具をひっくり返す辺りでは目も血走って完全に「憑かれた魂」。最後は蟻が天敵の蜘蛛とかトカゲを集団で襲って完全に解体してしまうのと同じように…。
 私は「なぜレスコー博士とケンドラは蟻に選ばれたのか」という疑問が前からありました。音波攻撃で蟻たちに最大級の被害を与えたのはレスコー博士の方だし、ケンドラも馬を殺さなければならなくなった恨みから衝動的に蟻へ攻撃を加えている。しかし何度も見直してみてその理由はよく分ってきました。この二人は蟻に対して一定の「敬意」とも言うべき感情を抱いている。決して「天敵」ではない。むしろ蟻の同朋として一緒に進化の道を辿るべき「共生関係にある生物」だと認識されたのでしょう。最後の最後、ようやくソール・バスらしい鮮やかな光彩アートワークで「Phase?第四局面」に入ったことが告げられます。これは「蟻による人類征服の局面に入った」と一般に解釈されていますが本当にそうでしょうか。私は「『選ばれし人類』が宇宙光線によって新たな進化の段階に入った」という暗喩だと思っています。そう、それは『2001…』でボーマン船長がスターチャイルドとなって地球に戻ってくるが如く。キューブリックもバスもユダヤ人です。そこにユダヤ教的な「超越的存在による人類への裁きと、選民思想」の影が見えてくるのです。
 深い所に切り込んでしまいました。この先はもはや研究論文レベルの「局面」に入ってしまいますので切り上げて最後に。初めて見た当時、私はある女性と付き合っていました。彼女は本作のケン・フレデリックによく似た容姿で、生い立ちもケンドラと少し似ていて余り幸福ではなく、何より私とは12歳の年の開きがありました。本作は私にとっては現実と虚構の境目を揺さぶるものだったのです。そしてその1年後、私は高校教師として採用されました。彼女が私を精神的Phase?へと誘ってくれたお陰だ、って今でも私は思っています。そして私の人生もPhase?へ。そんな様々な想いが交錯する映画です。そして私が年間200以上もの映画を見始める端緒の一つとなった映画でもあります。メディア化もされたのでぜひ見てください。

詳細評価

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