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いますぐ抱きしめたい

yad********

4.0

ジュークボックス

ご存知、ウォン・カーウァイ監督の長編デビュー作品。 後の有名な作品群を知る人には、色々と驚く内容だと思います。 まず、起承転結がはっきりしている、単純明快なストーリーです。 予想通りの展開、そして解り易す過ぎるキャラクター達。 所謂、ベタ(笑) 続いては、落ち着いているカメラです。 あのクリストファー・ドイルのアクロバティックなカメラとは違い、 いかにも香港フィルム・ノアール調の佇まいです。 猥雑な夜の香港もブルーに染めて、どこか荒涼としています。 要所、要所でエモーショナルな演出、意表を突くカメラワークが入って、 後の監督らしい感性を見て取れますが、 基本は、香港アクションで見慣れているリズムの映像でした。 歯の浮く台詞も少ないです、はい(笑) その時彼女との距離はどうとか、何時何分何秒を俺にくれとか、 どうとか、こうとか・・・ カーウァイ監督作品以外では鳥肌が立つ臭い台詞が無いです。 いかにもチンピラの兄貴分、無鉄砲な弟分が言いそうな台詞の応酬です。 そして本当の恋を知った男が女に対して不器用に接する態度が微笑ましいです。 そこには、発作的な言動や刹那的な愛の行為とかはなく、 主要人物3人の感情を丁寧に丁寧に描きこんでます。 感情移入が容易でございます。 まとめますと、ウォン・カーウァイ節が、希薄です。 じゃあ、誰が監督か分からないのかと言えば、そんなことはありません。すぐ気付きますよ。 いかにも彼らしい作風だ!って。 多分ですが、まだ名を上げる前の作品なので、彼の自由は制限されていたのではないでしょうか。 これまでの香港アクションらしさ、当時認められつつあった香港フィルム・ノアールらしさを醸し出すことで、一般大衆に受けるように作らされたのでは。 にもかかわらず、そんな制限を掻い潜り、押さえても押さえきれない監督の感性が其処此処に表れています。 例えば、電話ボックスのキスシーン。例えば、弟分の借金を取り立てに来た男への復讐シーン。 カメラはドイルではありませんが、いかにもスタイリッシュでアクロバティックで、そして攻撃的だけど流麗な美しさが前面で出ていました。 この『いますぐ抱きしめて』は、他の監督が撮っていたなら駄作の域を出ない単調でありふれた作品だったでしょう。 ベタな話、見慣れた演出、解り易い演技と感情表現。。。にもかかわらず、名作の域まで押し上げた監督の手腕はホンモノでしょう。この作品で認められて自由に撮ることが出来るようになり、やがて世界で認められるようになるのですが、それ以前の、こうした不自由さの中でも発揮された監督の才能・手腕こそが、見所の作品なのです。 そしてある意味、逆のことも言えます。 中にはあの気障ったらしいウォン・カーウァイ節やドイルの手ブレや魚眼レンズ、わざとピンぼけさせた様な、やかましいカメラが苦手な人も居るでしょう。 この作品は大丈夫です。彼を見限る前にもう一度この作品にチャレンジしてみて下さいませ。 さらには、マギー・チャンの独特の雰囲気、そもそも『プロジェクトA』でのコメディエンヌの印象が強くてイマイチ・・・という人も。 なればこそ、そういう方にもオススメです。化粧っけの無いピュアで繊細なマギー・チャンはとても魅力的です。個性が強いアンディ・ラウとジャッキー・チュンと並んで霞む事無く、むしろ輝いてました。 彼女も監督と組んで名を上げた女優です。 国際派の貫禄を身につける前の原石としての輝きは、洗練されてないかもしれませんが、演技派転向を成功させた監督の期待に応えて、とても健気で逞しくもある美しい輝きを放っているのでした。 タイトルの“ジュークボックス”は別に意味はありません(苦笑) ただ、なんとなく、ウォン・カーウァイ作品はこれが良く似合うなぁ。。。って思っただけです(苦笑) この作品でも登場してました。

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