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古井戸 (1987)

老井/OLD WELL

監督
ウー・ティエンミン
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3.15 / 評価:13件

「物語を伝える」と言うこと

  • lamlam_pachanga さん
  • 2010年8月25日 9時45分
  • 閲覧数 597
  • 役立ち度 4
    • 総合評価
    • ★★★★★

本題に入る前に、ちょっと妙なことを言わせて下さい。

あなたが映画に求めるモノは何でしょうか。

私は、物語であること、を求めます。

映画本来の役割のひとつは、物語を語る、と言う実にシンプルなものであるはずだと思うから。

なのに、たったそれだけのことなのに、最近この部分を疎かにする映画が多くなり過ぎている気がします。巷間よく言われる、映画が芸術か娯楽かの議論は、私は興味がない。どっちだって構わない、とさえ思います。

それが、面白ければ。

それが、物語を伝えてくれているのなら。


84年、中国映画界は陳凱歌(チェン・カイコー)の『黄色い大地』の登場により転機を迎えます。以後、黄建新(ホアン・ジエンシン)は『黒砲事件』で社会主義を痛烈に揶揄し、『紅いコーリャン』の張芸謀(チャン・イーモウ)は色彩への拘りを見せ、呉子牛(ウー・ヅーニウ)は『晩鐘』で「静寂と闇」の戦争を描き出します。

所謂、第五世代と呼ばれる彼らは、それまでの中国映画界にあった伝統的ストーリー・テリングを否定し、自身の作家性を優先させる監督たちでした。そして、今日では個人主義の映像化と言う特徴を持った婁燁(ロウ・イエ)や賈樟柯(ジャ・ジャンクー)たち第六世代の登場により、中国映画界はますます伝統的ストーリー・テラーが減りつつあります。

正直、今日の中国映画界の状況を、私個人はあまり好ましく見ていません。

商業主義の波は社会主義体制にあって「改革解放路線」を標榜する中国経済にも波及し、映画界もそれと無縁ではいられなくなっています。

第五世代でさえ、90年代以降は商業主義に走り、かつての自分たちを忘れてしまったかの様な印象さえある。

極論(且つ暴論)を言わせてもらえるなら、作られるのは商業主義へ迎合した第五世代の作品か、個人主義を貫く第六世代の映画。でなければ、訳の解らないハリウッド風味の合作映画、と言う現状。

一昔前は違いました。

謝晋(シェ・チン)の撮る映画(『芙蓉鎮』、『乳泉村の子』等)はどれもストーリー性に溢れ、それを受け継いだ呉天明(ウー・ティエンミン)らの映画にも同じものが感じられたものです。

それが本作(ようやく本題)。

この『古井戸』も、やはり第五世代以前の監督(呉天明)が手掛けたためでしょうが、映画本来の姿でもある“物語”が残されています。

老井(古井戸)村。数百年に渡り井戸を掘り続けているこの村は、水を手に入れるのに10kmも離れた場所まで汲みに行かねばならぬ山西省太行山中の寒村。生活条件の悪さから村へ嫁ぐ娘もおらず、井戸の使用権を巡って隣村との諍いも絶えない。映画は、この村に住む青年・孫旺泉(張芸謀)、彼と惹かれ合う趙巧英(梁玉瑾)、井戸堀の事故で旦那を失った若後家・喜鳳(呂麗萍)の関係を中心に、それを取り巻く個性豊かな村の人々のドラマを描き、同時に村の宿願である井戸掘りの経過を描き出していきます。

物語と映像は『黄色い大地』と被るところもあるのですが、その明確な違いは、あちらが大自然と政治的テーマを語るのに対し、こちらの物語はあくまで人間が主役と言う点。

呉天明の演出は『変臉/この櫂に手をそえて』に顕著な様に、「地に脚の着いた演出」が特徴。

それが今日的ではないと言えば、確かにそうでしょう。

地味な物語は退屈だ、と言う意見にも(渋々ですが)頷けます。

それでも、奇をてらわず、ひとつひとつの画を丁寧に繋いで物語を伝える姿勢は、もっと多くの映画人(と映画ファン)が見直すべきだと、私はそう思います。

この頃の呉天明は西安電影製作所の所長でもありました。その立場から、地元(陝西省や山西省)を意識した映画を作らざるを得ない制約があったはずです。そんな中で第五世代を育て、自らもストーリーを失わない映画を撮り続けた呉天明はもっと評価されてもいいのでないか、とすら思っています。

最も、私も『黄色い大地』の圧倒的映像の前に沈黙し、『ふたりの人魚』の描く中国社会に身震いした男です。

そんな第五世代や第六世代の才能を否定する気はありませんし、その才能が幾つかの傑作を生んだことも事実です。

ただ、これは個人的な嗜好、なのでしょう。

どうも、私は懐古主義に過ぎる様で(苦笑)

正直、呉天明の映画としては本作よりも一介の映画監督に戻って撮った『変臉/この櫂に手をそえて』の方に、そのストーリー・テリングの真髄が表れていると思います。

でも、村人の三角関係と宿願の井戸掘りと言う二重のストーリーを伝える『古井戸』も、決して悪くはない。

他人(ひと)に薦めるものだとは思いませんが、(私の様に)物語のない映画に辟易してる人なら、試してみるのも悪くないかもしれませんね。

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

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