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北京オペラブルース (1986)

刀馬旦/PEKING OPERA BLUES

監督
ツイ・ハーク
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3.80 / 評価:5件

躍動するツイ・ハーク

  • lamlam_pachanga さん
  • 2010年8月15日 14時31分
  • 閲覧数 530
  • 役立ち度 9
    • 総合評価
    • ★★★★★

『北京オペラブルース』は、ツイ・ハーク自身がこれに先立つ84年に製作した『上海ブルース』の姉妹編(本当はこの後に広州編が製作され三部作となる予定だった)。ストーリーは前作と何の繋がりもないが、主要スタッフ・キャストを同じくし、戦前戦中の中国を舞台としている点、そして物語の中心に女性を据えている点が共通しており、もし広州編が製作されていれば『ワンチャイ』シリーズと並ぶ彼の代表的三部作となったはず。

今思えば、ツイ・ハークは、この頃(80年代半ば)までは娯楽映画監督として非常に優れた手腕を発揮していた様に感じます。日本では、この後、ジョン・ウーと組んだ『男たちの挽歌』、或いはチン・シウトンとの『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』、そして『スウォーズマン』等の各シリーズの製作者として評価されていますが、私自身は、やはり彼が現場に立って作った『蜀山奇傳/天空の剣』や『上海ブルース』、そして本作の方が、彼本来の魅力を発揮した作品ではないかと思っています。

本作(及び『上海ブルース』)は、ツイ・ハークの映画としては珍しく映画としてのバランスが良い。

90年代に入ると、彼自身が『スウォーズマン/剣士列伝』での荒唐無稽な演出から脱却出来なくなり、ジェット・リー主演で日本でも大人気の『ワンチャイ』シリーズにしても(私も大好きな映画ですが)この当時のキレを凌ぐとは思いません。90年代のツイ・ハークはその商業主義を貫徹し、そこから生まれるエネルギーを映画の魅力にまで昇華させてしまいましたが、やはり映画本来の姿である「物語を語る」と言う姿勢を保っていたのは、この『北京オペラブルース』が最後だと思うのです。

袁世凱が大統領に就いた群雄割拠の北京。軍閥の娘(ブリジット・リン)は将軍である父親の愛情を感じながらも、民主国家建設への夢を追いゲリラ組織へ身を投じる。ある日、貧しさから金への執着を見せる娘(チェリー・チャン)、舞台へ立つ日を夢見る京劇団の娘(サリー・イップ)と知り合った彼女はふたりと意気投合。三人は一致協力し、袁世凱失脚に繋がる政府の極秘書類を手に入れるべく、ゲリラを取り締まる秘密警察との戦いを繰り広げる。

本作を80年代香港映画を代表する娯楽活劇に数える人がいても、私は不思議には思いません。

ツイ・ハークの映画としては奇蹟的に物語がしっかりしていること、演出に逸脱がほとんどないこと、女優たちの息吹が画面一杯に感じられること。本作の魅力は多々ありますが、何よりも映画として「面白い」と言うことが一番の理由。

本作を観る度に私が思うのは、やはり時代劇、特に活劇モノを撮らせるとツイ・ハークの右に出る者はいないな、と言うことです。彼が武侠映画の大ファンであることは周知の事実ですが、彼が撮る現代劇には感じられない熱意を感じるのは、決して偶然ではないでしょう。そして、彼の映画は総じて現代劇の時よりも時代劇の方が面白い。

デビュー当時のタランティーノは「自分の観たい映画を撮る」と言っていました。恐らく、ツイ・ハークが時代劇を撮る時も根底には似た思いがあるはず。それはジョン・ウーが香港ノワールを撮る熱量とも重なるもの。つまり、本作にはえげつない商業主義に囚われる前の、映画作家としてのツイ・ハークの姿があります。

アクションあり、笑いあり、涙あり。これらの要素をテンコ盛りにして終幕まで疾走していく様は、まさに香港映画の王道。まだワイヤーが流行する前の香港映画界にあって映画監督としてバランスを失う前のツイ・ハークの演出は、彼が「香港のスピルバーグ」と呼ばれたことを納得させるに十分のキレを見せ、これ以上ないくらい冴え渡っています。

そしてツイ・ハークの演出と同じか、それ以上に本作に貢献しているのが主演の三人。私のご贔屓であるチェリー・チェンは相変わらずの可愛らしさ(彼女の場合、私にとっては演技とかどうでも良い)。サリー・イップは好きではないのですが、三人の中で最も人間的なキャラクターを感情豊かに演じます。それでも、やはり本作一番の華は主役のブリジット・リン。この人、本当に存在感が頭抜けている。「男装の麗人」の異名を持つアジア屈指のこの女優の魅力は、やはり映画を観て確認して下さい。

ツイ・ハークが撮る時代活劇は、全て「反権力側の人間」を主役に据えます。

彼らは理想に燃え、戦いに身を投じ、危機を乗り越え、明日へと向かう。

そこに余計な要素を盛り込むことはせず、とにかく突っ走るのが彼の映画の特徴。

90年代以降、商業主義に篭絡された彼の映画は観る人を選ぶ(好き嫌いが分かれる)類のものへ変質していきますが、この頃の彼の映画は、誰もが楽しめる真の娯楽活劇。

もしあなたが面白い映画を見逃したくなければ。

『北京オペラブルース』は必見です。

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