戦後の結節点に気づかなかった頃の佳作
- mitubajusiro さん
- 2020年8月5日 15時30分
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日本ではバブル絶頂期のころの話。
終戦から40年、この国は本当に戦争に負けたのだろうか、という疑問と感慨が都会の情景にあった。アフガンでソ連のあがきが聞こえ冷戦の終幕がほの見えていた。
一人当たりGNPは米国を抜き戦後経済の凱歌は日本に挙がっていた。このつかのまの戦勝気分は5年後の湾岸戦争で一挙に吹っ飛ぶわけだが。
それは表面的な経済的成功が実は政治的ないし精神的な停滞を犠牲にしての仮構であったことを平成時代になって日本人は知ることになる。
この映画はカラテを通じて東洋を象徴する日本文明とその精神性をいささか誇張して描き、アメリカ人の好む「正義」「男気」に絡ませた佳作である。ひ弱な未成年がカラテの訓練を通じて精神性を高め肉体的にも成長する気持ちの良い話だ。
少年を訓導する沖縄出身の小柄な老人はハワイで妻と農業でつつましく生計を立てていたところ日系部隊として欧州戦線に送られる。その任務を果たす一方、妻は収容所の中で産後が悪くて死んだ過去がある。
日本人の貢献に目を向け高い精神性の中で生活している設定にはオードリーヘップバーン「ティファニーで朝食を」のような1960年ごろまで存在した日本人への蔑視は完全に影を潜めている。
空手道場の違和感のある練習風景はアメリカ人の無知からくる演出ではなく彼ら自身による自虐的で意図的な描写であるように見える。
こうした作品がアメリカで自然発生した成果を発展させることができず、経済摩擦を突出させる一方で冷戦勝者の権利を放擲し湾岸戦争で腰砕けの政治弱者をあらわにした。平成の自信喪失の時代に自ら飛び込んだ「空白の30年」の入口にあるのがこの作品である。
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