作品レビュー(9件)
- pag********
5.0点
ネタバレ別人になった夫
このレビューにはネタバレが含まれています。 - le_********
4.0点
このレビューにはネタバレが含まれています。 - 佐渡の渋谷陽一
4.0点
どうして未発表だったのかと思う、ベルイマンらしさが出ているがかなり直接的な(ベルイマン的にだが)戦争映画でビックリ。この前の作品「狼の時間」がホラー映画だったのでこの頃は色々な作風を作品毎にどんどん試していたのでしょうか?それにしても冒険する監督だったんですね。
- 一人旅
5.0点
イングマール・ベルイマン監督作。 離島で妻と平穏な暮らしを送っていた男が戦争により自己を破壊される様子を描いたドラマ。 ベルイマン映画の中では比較的テーマが分かりやすい作品で、戦争が人間の精神にもたらす負の影響を男の言動の変化を通じて映し出している。 男(マックス・フォン・シドー)は気弱な性格で、そんな男を妻(リヴ・ウルマン)は度々責める。「根性なし!」なんて男として言われたくないような言葉で攻撃されるのだ。男の家庭はどちらかと言うとかかあ天下で、妻が男をひっぱっている。序盤で男の心の軟弱さを強調的に描くことで、戦争の悲惨な現実の被害者となった男の心の変化が一層明白になる。 男だけが戦争の被害者ではない。夫婦と友好な関係を築いていた市長も、戦争の狂気に心を侵され、権力を武器に夫婦に対し脅迫とも取れるような行動を取るのだ。和やかなムードで歓談している中、突如響き渡る市長の怒号。それまでの空気は一気に破壊され、狭い室内に緊張感がはりつめる。 戦争の恐怖と不気味さを感じさせる演出が素晴らしい。小舟にまとわりつく無数の死体。櫂で死体を船体から遠ざけようとしてもしつこくまとわりついて離れない。船上の人々が迫りくる死の気配に支配されていることを暗示したシーンだ。また、兵士が射殺される様子を映像ではなく銃声だけで表現したシーンも恐ろしく絶望的だ。 人を愛する気持ちや思いやる気持ちは人間性だが、冷酷さや攻撃性もまた人間性の一部だ。普段の平和な暮らしの中では後者の人間性は影を潜めているが、戦争という異常で狂気に満ちた環境に晒されると前者の人間性は失われ、人間性の醜い部分が人の心を支配してしまう。戦争だけが人間性の悪の部分を引き出す唯一のきっかけではない。逆に言うと、何らかの機会さえあれば人間の本性なんて簡単に表れてしまう可能性があるのだ。
- りゃんひさ
4.0点
イングマール・ベルイマン監督の1966年製作、日本での劇場未公開作品『恥』をDVDで鑑賞しました。 昨年2013年暮に観たドキュメンタリー『リヴ&イングマール ある愛の風景』中にかなり用いられた映画だったので、どんな映画なのか興味を持った次第。 さて、映画。 北欧のとある島。 元交響楽団員の夫婦(マックス・フォン・シドーとリヴ・ウルマン)が都会から離れて暮らしいる。 夫はかなり鬱気味で、なにかあると二階に通じる階段でうずくまってしまう。 妻は夫との間に子どもが出来ないことを悩んでいる。 島から離れた本土では内乱が続いており、それが都会を離れた理由のひとつでもある。 しかし、平和にみえた島にも、政府軍の部隊は上陸し、頭上を戦闘機が飛び交うようになってきている。 ある日、解放軍の軍隊がやって来て夫婦を姿を映画として撮るが、解放軍はその映像に自分たちに都合がいいようなセリフを重ねて宣伝に使っていしまう。 政府軍は、それを知り、他の島に暮らすひとびととともに夫婦を捕えてしまう・・・ それほどベルイマン監督の映画を観ているわけではないが、これほど直截的に戦争をモチーフにした映画は初めて観ました。 大規模な戦闘シーンなどは少ないのですが、爆破や暴力が轟音とともに描かれ、凄まじい迫力で恐ろしくなります。 スヴェン・ニクヴィストの撮影が素晴らしいです。 で、映画でありますが、ベルイマンの映画ですので戦争を描くのが目的ではありません。 戦争を通じて、人間性が崩壊していくさまを描くのが目的です。 ですので、場所の詳細や戦争の背景などは描かれません。 あくまでも、架空の島、架空の戦争です。 (スウェーデンの歴史に疎かったので、こんな戦争があったのかしらん、と観ている間ずっと思っていました) 人間性の崩壊は、主として夫マックス・フォン・シドーに起こります。 初めは、食用の鶏も殺せず、爆音に恐れおののいていただけですが、政府軍に捕えられたこととその後の妻と市長とのやり取りを通じて、人格が崩壊し、ひとを殺すことを厭わなくなってきます。 このあっというまの変化をマックス・フォン・シドーが恐ろしい迫力で演じています。 反対に、妻リヴ・ウルマンは、戦場での死を目の当たりにして、気丈だった精神が急速に不安になっていきます。 そして最後には、絶望に辿り着いてしまいます。 夫婦は、戦地となった島から何人かのひとびとと小舟にのって海に漕ぎ出しますが、何日経っても陸地は見えず、船頭は海に身を投げ、終いには夥しい数の兵隊たちの屍の中に小舟は彷徨い出てしまいます。 小舟の中で妻は夫にささやきかけます。 それは、自分たちが持ちえなかった赤ちゃんの姿をみた夢の話。 その夢のなかで、何か言葉を聞いた、でもその聞いたことがある言葉は思い出せない、というもの。 たぶんその言葉は、祝福や希望やそれら明るい兆しを意味する言葉なのでしょう。 思い出せないことから、絶望に辿り着いた解釈しました。 タイトルの『恥』とは、「人間性」に対する対義語ではありますまいか。 人間的要素をどんどんと喪っていく究極のものが、戦争。 そう解釈したりゃんひさでありました。 評価は★4つとしておきます。 <追記> 舞台が架空の戦争と判れば、ベルイマン監督作品の中でも判り易い部類の映画だと思います。
- bha********
4.0点
鑑賞してから1ヶ月近くレビューが書けずにいました。強い映像インパクトを受け続けた作品です。北欧を舞台にしたモノクロの66年製作の作品ではありますが、どこか近未来のようでありながらこの世の果て的な世界を映し出しています。 倦怠感はありながらも平和に暮らす夫婦の日常が戦争によって脅かされていく姿が描写されていきます。戦争の残酷さや戦争の善悪を問いかける作品も少なくない中、ここではむしろ戦争にまきまれていく無力な一般市民がじわじわと戦争による邪悪なスピリットに蝕まれていく様子に焦点があてられているように感じました。 生き延びていく為には、人間らしく生きていこうなどという姿勢は捨て去らなければならないんだといった哀しい現実をつきつけられます。「火垂の墓」でも描写されていましたが、人が残酷になってしまうのは戦争が、人をそうせざるを得ない状態に追い詰めてしまうのだということなのでしょう。 戦争をテーマにしていながらも残酷なシーンは殆どありません。北欧の森林の中にある木造のシンプルな一軒家に住む夫婦の不安や孤独・絶望などが寒々しく表現されているあたりが何とも言えない恐怖をさそわれます。 偶然にこの作品の鑑賞数日前にも同テーマを扱った同じく北欧の作品である「ある愛の風景」(スザンネ・ビア監督)を鑑賞しましたが、生死の淵に追い詰められた人間の人格の崩壊が描かれていました。 気弱で病弱な夫が物語の後半には別人のようになってしまいます。戦争がそうさせてしまっているのだと思うと、戦争は敵・見方問わず多くの死者を出すだけでなく生き延びた者の魂までも捻じ曲げてしまうまさに人類滅亡への核兵器やウィルスに相当する破滅的な存在ですらあるようにすら思えてきます。 入手困難な作品が多いベルイマン監督作、もっともっとみてみたくなりました。 監督は2007年に89歳で亡くなられていますが、その4年前にも「サラバンド」という作品を発表しています。60歳半ばに発表した大作「ファニーとアレクサンデル」を機に映画監督業からは離れていたようですが、その後も数々の脚本を作り上げてきたようです。生涯情熱を注いでこられる“仕事”を持ち続けたベルイマン監督にも興味を持たされてしまいました。
- Amaterasulover
5.0点
戦争から逃れ小さな島に平和的な音楽家の夫婦。。 泣いてばかりいる気の小さい夫としっかりと意志をもった優しい妻。。。 戦域が広がりその小さな島も戦争に巻き込まれていく。。 そして、ある事件をきっかけに、夫の性格は豹変していく。 設定もストーリーもよくあるパターンだが、他の監督に絶対できない演出と脚本です。 夫妻が恩を受けた市長が、夫妻の家に、おそらく最期の覚悟を決め、、挨拶にやって来る。 市長は自分が持っていても仕方がない金を、、好意のあった、その妻に渡す。。 妻に、キスしていいか。。と聞く市長。。。 夫が酔って寝ている間に、妻と市長は温室へ。。。 それを発見し、、、泣く夫。。 やがて、銃を持った人たちが市長を捕らえにやって来る。 保釈金を渡せば市長を解放するというが、、、。 夫は、金など、、知らないと嘘をつく。。 そして、夫は兵隊から銃を渡され、、市長を銃殺する。。 市長が自分の妻に対し意味ありげな行動をとらなければ、 夫は素直に市長を助けていたのではないかと思う。。。 結局夫は、嫉妬という憎しみに突き動かされ、兵隊の言うままに市長を銃で殺してしまう。。 今まで、鶏さえ殺せなかった夫なのに。。。 これは、戦争という状況を借りた個人的な憎しみによる真の殺人であろう。。 戦争という異常な状況の中で、やむおえず、自分が生き残るために犯す殺人とは動機が違い、 おそらく、戦争という状況に見せかけて個人の嫉妬での殺人、、それが「恥」なのではないか。。。 そして、一人殺したことにより、夫の性格は一変して残忍性を帯び、 再度、、命乞いをする脱走兵をも殺してしまう。。 妻をも、見捨てようとする。。 島から脱出する小舟は、漂流し始める、、失った人間性と罪を象徴するかのごとく。。 戦争というものにいやがおうにも巻き込まれ死んでいった兵士の死体が浮かぶ海と、 個人的な殺人を犯しても尚平気で生きている夫を罰するかのごとく。。。 小舟の中で妻の見た夢、、「(自分の娘としての)赤ちゃんにキスをされ、何か聞いたことのある言葉を思い出そうとするけど、、どうしても思い出せないの。。。。」 それは、、何かとてつもなく大きなものを喪失した、、、象徴なのだろう。。。 僕がこの監督のことを好きなのは、、「蛇の卵」もそうでしたが、心を知らず知らずのうちに動かしてくれるからです。。。この映画の場合、、、喪失感が、、、最期の台詞で、、、忍び寄ってきました。 描こうとしている心が、自分の中に「生まれる」、、、感覚が、、、「生まれる」からなのです。。。 これは、この監督だけが出来る魔法だからです。
- dob********
5.0点
戦火の中、鶏も殺せない臆病な夫が殺人者へと変貌していく姿がとにかく痛々しいです 「人間性の喪失」と一言で片付けてしまう事は出来ない ベルイマン監督の洞察力と表現力にはただただ頭が下がります 戦争が人間性を狂わせて根底から破壊してしまうという事実を克明に描いた作品は 多々ありますけど、こういう風に描写出来るのはベルイマンならではですね 戦争とは究極の絶対悪であり、人間の知恵と知識と技術の究極の悪用で 無駄遣いであり、究極の恥だと突きつけられるかのようです ベルイマンはやっぱり凄い作家ですね、半端ない演出力に参りました
- bun********
4.0点
戦争による人間性の喪失を描いた作品。 ベルイマン監督作品の常で、暗く、重く、深い内容だが、 珍しく直球勝負の分かりやすい映画に仕上がっている。 ベルイマンは、人間が穿り出されたくない心の暗闇を、 情け容赦なく見せるので、いつも暗澹たる気分にさせられるが、 誰も真似することが出来ない人間の奥底を覗き見せる映像の ダイナミズムは、観る者を魅了してやまない。 戦火を逃れて離れ小島に非難してきた夫婦を執拗に 追いかけてくる軍靴。 運命論者の夫は絶望の中で狂気に走るが、 妻は希望を失おうとしない。 『私は必死で何かを思い出そうとしていた。誰かの言葉を。 でも思い出せない。』 神の不在を語る妻のモノローグは、 無神論者であるベルイマンが、未来に向けて放った 普遍性を持つメッセージなのだ。(80点)