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ホワイトナイツ/白夜 (1985)

WHITE NIGHTS

監督
テイラー・ハックフォード
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3.78 / 評価:121件

暗闇のない白夜にも冷戦と信条の影があった

  • 真木森 さん
  • 2014年5月6日 17時28分
  • 閲覧数 1962
  • 役立ち度 9
    • 総合評価
    • ★★★★★

地理の授業でロシアものを見せたいのですがなかなか良いものがなくて。仕方なく、相当に米国目線であることは承知でこの作品を見せました。KGBの官僚主義的で些細なことでも見逃さず執拗に監視し尽くす感じは「ロシアって怖い…」という意識を植え付けて逆効果ですが、冷戦下の共産党体制ソ連の息苦しい感じは伝えられたかも。という訳で、今では忘れられてしまったこの傑作についてレビューします。
 本作は何と言ってもライオネル・リッチーの“Say You,Say Me”が有名ですね。しかし、80年代の映画にありがちですが、本作も「主題歌はよく知っているのに映画本編は見たことがない」という陥穽にはまり、私も映画自体を見たのはずーっと後、すでにソ連は崩壊して新生ロシアではハイパーインフレが巻き起こっていました。監督のT.ハックフォードはなんと『愛と青春の旅だち』『カリブの熱い夜』に続けて本作を撮った人。これだけヒット作を撮っていたのにも関わらず映画史に名前が残っていないのはやはり「音楽先行」の生け贄になったということでしょうか(奥さんはヘレン・ミレンですから、もしかして本作で知り合ったのが縁になった?)。この「音楽先行」故でしょう、否応なく古くささを感じざるを得ないのが所々でカセット(!)から流れる80年代ダンス・ミュージック。「格好良かった」って感想に書く生徒もいましたが、当時のことを知っている私は「は、恥ずかしい!」。せっかく古式豊かな町並みの中でトップダンサー達が超絶体技の限りを尽くした素晴らしい輪舞を見せているというのに、この安っぽいノリの打ち込み系音楽は…。
生徒にはある程度事前説明をしましたが、すでに今ではソ連自体がない中で「冷戦下」の政治状況やレイモンドの抱える本国アメリカでの人種問題・ベトナム戦争が絡んできて、生徒たちも口々に「難しかった」と語っていました。それでも両者のダンスは時代を超えて圧倒的なインパクトだったようです。現在の先端ダンスはヒップホップ系だったりするし、どんなにリアルに見せてもCG合成の影が見えて嘘っぽかったりするので新鮮。しかも今の高校生にとって最高峰のバレエダンサーの至芸を見るのは初めてだったかもしれず、「踊りを通してこれ程までに何かを表現できるものなのか!」って驚嘆する生徒も数名でした。それに私が考えている以上に色々なものが読み取れたようです。高くそびえる石造建物にハリー・ポッターで出てくるような格子エレベータ(しかも手動式)。意外にも多くの人が採石場で働かされているのは衝撃的シーンだったようです。レイモンドたちの服はぼろぼろの着ざらしなのに高官たちは結構裕福な暮らしをしている。ウォッカが楽しみで部屋でも土足、道は広くて左ハンドル…。
 何より大きな要素は「白夜」です。始終明るい。映画中でも「白夜のシーズンに入ると気が滅入る」的な発言がある。日中、あんなに人が多いのに、いざ脱出劇になると車も人通りも無くて「演出上手抜きをしたのか?」って思った生徒もいました。そう、白夜ではいつでも夜でも明るい。あのハラハラドキドキの逃亡劇も、白夜で明るみにさらされてるが故に宙ぶらりんの下に黒ずくめの車がいるという劇的な演出に(脱出行は薄暗い中という映画上の不文律があるため、この白昼の逃亡はかえって鮮烈なのでしょうね)。しかし白夜の期間は終わり、ロシアにも夜が訪れる。みんな気付かないのですが、最後のレイモンド連行のシーンは「夜」なのです。ここが面白い。我々の文脈では暗闇は良くないことが起こるモンタージュでもある。しかし「白夜」のロシアでは価値は逆転する。夜の暗闇はもしかしたら「和解」や「寛容」の象徴に転化するのかも知れない。人間には「闇」が必要なのです。それはニコライとレイモンドの立場と信条の如く。でも「反する影」の中にも共通する価値があって物事は止揚する。それはダンスへの情熱や愛する人を思う気持ちによってだったり。仇役のKGB高官(スコリモフスキー監督!)にも1つの理があった。終盤、彼は極めて現実的な政治判断をする。ハリウッド文法ではこれはあり得なかった。共産主義の悪役はピカレスクを発散して制裁されていくのが相場だったのですが、そこを「なるほど、それはありそうだな」という大人な感じの決着の付け方をする。レーガノミックスのプロパガンダ真っ直中に作られた映画とはいえ、この公平な目線の中に冷戦の終わりが何となく見えていたというのは穿ち過ぎでしょうかね。等々、豊富なテキストであるというのは間違いないでしょう。かつての「赤狩り」時代を『真昼の決闘』や『波止場』等から読み解くというのが今では映画鑑賞の常道となりつつあります。それと同じく、本作から冷戦晩期の息づかいを感じてください。そして肉体を持った人間のダンスの素晴らしさ、イザベラ・ロッセリーニ全盛期の美しさも。

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