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幻の女 (1944)

PHANTOM LADY

監督
ロバート・シオドマク
  • みたいムービー 2
  • みたログ 13

4.00 / 評価:5件

原作とはまた別個の、ノワールの勇たる逸品

  • 真木森 さん
  • 2014年5月24日 23時31分
  • 閲覧数 757
  • 役立ち度 3
    • 総合評価
    • ★★★★★

GW明けから古いDVD収録映像をBDに移植してますが、WOWOWでかつて特集してくれた「犯罪と美女」=フィルム・ノワール作品群が発掘されました。その中でも秘中の秘たる映画が本作です。原作は推理小説史上に残る大傑作で、私も高校生の時分に読んで感銘したものです。「パリ万博母親消失事件」を下敷きにしたとおぼしき、証人にことごとく反証されていくその不条理劇のような展開。刻一刻と死刑の日が近づいていくサスペンス。「夜は若く彼も若かった」という有名なフレーズそのままに綴られる美しい文体…。第一級のノワールになっているに違いないと期待して本編を見たのですが、「あれっ、この秘書って誰?」。原作ファンならご存じの通り、このキャロルが女探偵よろしく街を闊歩する時点で原作の重要秘匿設定を開けっぴろげにしていますよね。しかも驚くことに映画が半分にさしかかった時に真犯人が明かされてしまう! しかもその真犯人は後半からキャロルに同行して「幻の女」を一緒に探す! さらに「幻の女」はあっさりとその所在が判明し、キャロルと不思議な味わいのあるやりとりをする。この「幻の女」の描写が秀逸で、本当に@@した人間の行動パターンがリアルな感触で映し出されます。それはともかく、最後は真犯人とキャロルが対峙し、典型的なハリウッド・エンディングで幕が閉じる…。ハードボイルドの側面をキャロルに収斂させて展開し、見事なノワールに仕立て上げたシオドマク監督の手腕はさすがですが、原作の醍醐味とも言えるポイントを早々にオープンしてしまって、これは「珍品」の域に入るんじゃ…。これは原作フアンには許せない代物だと思え、私も「何だったんだろう」というモヤモヤ感を残して、録画DVDは押し入れの隅に収蔵されたました。
 しかし原作抜きで考えたらなかなかの出来であることも事実です。何と言っても女主人公を演じたエラ・レインズが素晴らしい。碧い眼に切れのある所作、果断な行動で閉店までジッとバーテンを見つめ、深夜でも女一人で追跡する。「散歩してただけよ」タフ! 一転してドラマーに接近する時にはヴァンプ風の出で立ちでこれが妖艶! 凄い迫力でクリフに迫るのですが、その裏でキスされてイヤそうに口をぬぐうその顔ったら(このドラマー役はエリシャ・クックJr.で、数々の作品で名殺され役をやって本作でも…。ドラミングの激しさは彼にとっても一世一代の見せ場)。そして髪を下ろした彼女は実に女っぽくて守ってあげたくなります(思うに同年の『ローラ殺人事件』のJ.ティアニーが意識されている?)。抜群の演技力で魅せてくれてすっかりファンになりました。どういうキャリアの方なのか調べましたが案外作品数には恵まれなかったようですね(『拳銃の町』『真昼の暴動』でも素晴らしい演技を見せているとのことなので今度チェックしてみます)。もう一人の名演は「俳優の中の俳優」と謳われたフランチョット・トーンです。アクターズ・スタジオの前身になる組織の創立メンバーの一人であり、本作ではサイコパスの複雑な内面描写と二重人格、危うさ・突発性を表現して抜群! 白くライティングされた手は異常殺人者の心模様を何よりも雄弁に語ります。彼は時代を先取りした役柄を作っていた!
最後になりますが、実はヒッチコックは本作から相当に想を得ているのではという試論があるのです。途中で野卑なおばさんがリンゴをかじりながら喋るシーンに「これは『私は告白する』に引き継がれた描写?」って疑念が生まれたのが端緒ですが、その観点で見たら出てくること出てくること。そもそも本作自体が『疑惑の影』の影響下にある部分が大きいと思うのですが、アプリオリに男性の無実を信じて捜査する女性像は『白い恐怖』や『舞台恐怖症』、超人論理による殺人は『ロープ』でネクタイ殺人は『フレンジー』、何よりマーロウ像は『サイコ』のノーマン・ベイツに引き継がれたものと思えますし、色々なものを明かして「彼女は真犯人に殺されてしまうのでは」というサスペンスに転化した手法は『めまい』の構造にヒントを与えた? かの大監督は口外していないだけで結構他の監督から表現をパクっていることも多く(ムルナウは有名ですが、私見ではブニュエルやF.ラングの引用がかなりある)、ミステリー好きだったヒッチコックは本作も原作もよくよく自己のものとして咀嚼せしめたのでは。『北北西に進路を取れ』なんかは思い切り「不可解なほどにことごとく不在証言をされて、仕方なく自力で証拠探しをする」という物語ですし、今後研究すべき課題です。
 という具合に相当見所のある逸品です。原作乖離と言う無かれ。まずはミステリーの傑作である原作を読んで、それをノワールに落とし込んでいく時にどのような仕掛けが成り立つかを如実に示しているとも言えましょう。欠点はあれども芳醇なテキストです。

詳細評価

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