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水の中のナイフ

水の中のナイフ

NOZ W WODZIE/A KNIFE IN THE WATER

94

ken********

5.0

ネタバレ古臭さが微塵もない

映画が作られてから50年が過ぎた今でも微塵も古臭くない、いや、十分に若々しい、ポランスキーの奇跡のような映画。 1962年公開のポーランド映画はロマン・ポランスキーの監督デビュー作として知られ、アカデミー外国語映画賞にもノミネートされた。イギリスの映画雑誌であるエンパイアの2010年の"The 100 Best Films Of World Cinema"では61位にランクされ、ポランスキーの映画で他に100以内に入っているものはないので、少なくともエンパイアはこの第1作をポランンスキーの現時点での最高作としているということだ。それこそ”反撥”や”ローズマリーの赤ちゃん” 、”チャイナタウン” 、”テス”、果ては”戦場のピアニスト” までも後ろに置いて行こうというのだから、それ程の傑作だということだ。 映画は4:3の白黒の画面に気怠いジャズの音楽が流れ、男と女が田舎道をドライブしているところから始まる。そこにヒッチハイクの若い男が現れ、道路に突っ立つ若い男に危険だと激しく叱責をするものの、男はその若者を車に同乗させる。分別ざかりの男とその若く美しい妻と貧しいがどこか野心的でそして若さ故の美しさを持つ男は、妻の名前を冠した男のヨットに乗り込み湖を帆走する中での隔絶された完全に閉じた空間で、完全に3人のみの登場人物たちとして陰湿な心理戦を展開する。そこで渦巻くのは、憧れや理想、いや、優越と軽蔑、そして欲望と嫉妬だ。 そしてそれらの感情が閉鎖空間で複雑に絡み合い、ついに沸点に達した時、殺人が起き、隠ぺいが画策され、嘘と裏切りと不誠実がその本性を容赦なく表し、3人は破滅へと向かう。 その破滅へのきっかけともなる白黒の画面に降る雨が何とも素晴らしい。突然の雨に船内に閉じ込められる3人は、閉鎖空間のさらに狭いところに押し込められ、肌が触れ合う距離に息がつまりそうだ。そして、若い2人に男の昏い嫉妬が沸点を超え、殺人が起きる。 白黒の画面に雨を美しく降らせることが出来るのは黒澤明の”七人の侍”や”羅生門”、そしてより古くは山中貞雄の”人情紙風船”の頃から映画の天才のみが出来る芸当だと決まっている。 この映画のポランスキーもまた然りだ。そして、雨が物語の展開の重要なきっかけになるところも正しく映画的なのだ。 また、映画史的には1960年のルネ・クレマンの”太陽がいっぱい”からのその男2人と女1人の人物設定と、貧富、嫉妬、憧れ、不貞、と犯罪の展開と、何よりもヨットの上という閉鎖と隔絶の空間の殺人というプロットの類似性は明らかだろうが、逆には後年のエイドリアン・ラインの”運命の女”(原題はUnfaithful)は最後の警察に向かう車の印象的なバック・ショットも含め、映画全体がこの”水の中のナイフ”へのオマージュともいえる作品だった。 果たしてこの”水の中のナイフ”がポランスキーの”デビュー作が最高傑作”としてこのまま終わるのか、いや、80歳にしてまだまだ勢力的に最近も新作を発表し続けるポランスキーがそれ以上のものを獲得するのか、いずれにせよ映画が作られてから50年が過ぎた今でも、微塵も古臭くない、いや、十分に若々しい、ポランスキーの奇跡のような映画だ。

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