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水の中のナイフ

水の中のナイフ

NOZ W WODZIE/A KNIFE IN THE WATER

94

じゃむとまるこ

5.0

ポランスキーの才気迸るデビュー作。

ポランスキーは最初からポランスキーだった、という当然のことを感じさせる映画です。 ”栴檀は双葉より芳し” 本物の才能は経験から会得できるものではない、そう見えるだけで、本当はもともと持っているものが、経験を経て花開くものだと思う。 ポランスキーの才気のすべてがこの映画には有る、以降の彼の映画は、これを展開させシチュエーションを変え、スケールを大きくしたもの、と考えても良いと思う。 公開当時はセンセーショナルな映画だっただろう。 モノクロ、スタンダード、どのシーンを切り取っても一冊の写真集ができるくらい素晴らしい構図、モダンジャズ使いの音楽が緊張とけだるさを感じさせる。 特に映像美はすでに完成されていた、素晴らしいの一言。 冒頭、車を走らせる夫婦、フロントガラスに映り込む風景がドラマチック、その前に飛び出すヒッチハイクの青年。 フランスナンバーの車は豊かさの象徴のように青年の口から語られる。 豊かで安定した生活を手に入れた夫婦、そこへ突然闖入するモラトリアムな未熟な若者。 刺々しい言葉の数々、間に位置する冷静な妻の様子。 青年は夫婦のヨットクルーズに同行する、何故そうしたのか、そのあたりからすでに仕掛けてきている。 ヨットでの3人の緊張感高まるかけひき、ゲームに興じながらも探りを入れる。 青年がナイフを出した時から、お互いの関係に変化が。 ヨットで何が起こったのか、ヨット上のシーンはどれも素晴らしく斬新。 ある時点で、妻がバレッタで束ねていた髪をほどく、自由になった髪は、彼女が青年の側に移行したことを表しているように見える。 中年に差し掛かる夫の若さへの嫉妬、威圧的な大人への青年のいらだち、青年は彼らの安定を脅かす。 映画終盤、彼女は再び髪を束ねる、何事もなかった、女の怖さがわかる。 青年は旅立ち、夫妻は再び車に。 何事もなかった、そうするのだろう、大人の選択、大人とはこうなのだ。 二人の乗った車が三叉路で止まったまま、そこで終わるシーンが、まさにポランスキーだった。 妻を演じたヨランダ・ウメッカがとても魅力的だった、ポランスキーは女性の審美眼にも卓越している。 けれど男性陣は二人とも今一つ、特に青年が老けていて、どうにも若さのいらだちが伝わりにくかった。 ポランスキーは後アメリカに進出して成功するが、妻シャロン・テートが惨殺される事件、少女趣味が高じてアメリカ追放と波乱に富んだ人生、そんな中でも才能は衰えることなくスリリングな心理描写の映画でファンを楽しませてくれる。 東欧では映画人にもっとも評価されている監督の一人なのかもしれない。 今年に入って観た「コーヒーをめぐる冒険」「イーダ」とモノクロ・スタンダード、前者の音楽はモダンジャズ、とこの映画の影響を大きく感じた。

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