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動く標的 (1966)

THE MOVING TARGET/HARPER

監督
ジャック・スマイト
  • みたいムービー 14
  • みたログ 221

3.21 / 評価:67件

ハードボイルドと、女性達への優しい眼差し

  • 真木森 さん
  • 2013年4月7日 22時42分
  • 閲覧数 1146
  • 役立ち度 5
    • 総合評価
    • ★★★★★

知る人ぞ知る、ニューシネマ台頭前夜のハードボイルドの逸品です。好事家の間では冒頭の「古いコーヒーの出し殻を使う」シーンばかりが喧伝されるのですが、私はかつての大スターで現在はぶくぶく太って酒浸り、頭のねじも抜けた壮絶な役柄を生々しく演じるシェリー・ウィンタースや、『エデンの東』のあの姿も何のその、ヤク中で悪にも染まったピアノシンガーを衝撃的に演じきったジュリー・ハリスに圧倒されて、「話は何とも分からなかったが、何かが凄い。何かが壊れている」と感じた問題作でした。それに下半身不随になりながらふてぶてしさと優雅さを振りまいて存在感絶大のローレン・バコール。60年代的美人でありながら何か安っぽく、ビーチサイドの飛び込み台の上でビキニをさらしながら脳天気な音楽に合わせてフリフリ踊ってるパメラ・ティフィン(どことなく井森美幸に似てるなあ)にもノックアウト。これだけじゃ済まなくて、主人公の別居状態の夫人役がプラチナブロンドのジャネット・リーだというのですから豪華絢爛。要は女優陣の迫力にガツンとやられたと言うことですね。
 最近スカパー!のムービープラスで放映してくれたので何度も視聴しました。そうしないと人間関係が入り組んでいて何が何だか分からないんですよ。3回目には業を煮やしてついに「人物相関図」まで作成して臨みました(それでも出てきた瞬間に殺されてた重要人物エディが誰なのかすぐに判明せずお手上げになったりしましたが)。短い登場時間ながら強烈な印象を残すトロイは全身から悪の薫りとサディスティックさをギラつかせていますが、「この役をやったロバート・ウェッバーってどういう人なんだろう」って調べたら何と!『十二人の怒れる男達』の陪審員12番目の人! あの映画では眼鏡をかけたり外したりしていて全然気が付かなかったでしたが、注意して見直したら確かに。『ガルシアの首』にも出ていると知って調べてみたら、そうか、あのゲイの追跡者の片割れか(相方はギグ・ヤング)。それにしても「ぎゃああーっ!」ってJ.ハリスが絶叫しながらも足にタバコの火を押しつけて「分かってるかい、こちとら楽しんでんだぜ」って語るあの恐ろしいこと。そしてそのJ.ハリスも愛した@@が死んだことを知って更に辺り構わず顔をぐしゃぐしゃにして泣き叫ぶその身もフタもない迫力。本作は探偵ものとしては割合オーソドックスな作りをしていますが、所々こういう突出したシークェンスがあって痛烈に響いてくるのです。鉄ヤスリで殴られて額から血をダラダラ流しながらハーパーを追いつめるバドラーも、アランを挑発して**のことを口汚く罵る台詞も凄かったなあ。「簡単に股を広げる女だ」「じめじめしたところに生えるカビだ」云々。でも一番怖かったのは、ルンルン気分でベーコンエッグを作っていたのが一転して黄身を片っ端から潰していくスーザンの感じだったかも知れません←自分の経験と照らし合わせなくても良いのに。
 ロス・マクドナルドといえば『さむけ』が有名ですがこれはまだ映画化されていないですね。リュウ・アーチャーの冷たい感じが映画向きじゃないのかも。しかし、あの有名作家にして名物脚本家のウィリアム・ゴールドマンと、この頃一筋縄ではいかない複雑なヒーローを幾つも演じてのりに乗っていたポール・ニューマンの技量によって、愛すべき私立探偵「ルー・ハーパー」が生まれました。酔いどれて単なるブタ女に堕してしまったフェイに仕方なさそうに付き合っている優しさ(それにしてもストーリー上説明しておかなければならない箇所は他にいっぱいあるはずなのに、この件を長々と撮っているのはスタッフはなかなかのフェミニスト?)。ミランダに誘惑されても、トロイ一味にガシャボコにやられても(終幕までこの時の痣が取れない)、警察に対しても事件の主犯達と正面から対峙しても、高潔な態度を終始崩さない。そして明らかに危険な目に遭うと分かっていているのにフェイ家や半裸の聖者の寺院に再び乗り込んでいく。その動機になっているのは単に「サンプソンを探す」という初期の氏名を愚直に遂行するため。これだもの、奥さんのスーザンが「治らない病気ね」ってついて行けなくなるのも当然です。でも分かるんです。「昨年1年間のうち8ヶ月は胸のむかつく仕事ばっかりやっていた。でも、5、6週は本当に心の底から輝けるような体験が出来た」。これです。この「魂の発露」が再現したくて、どう考えても勘定に合わない難事に飛び込んだり、身体や命をはって向かっていく。ポール・ニューマンってそういうキャラクターをやらせたら絶品ですね。それが一番最後の名シーンに収斂しています。全体に演技過剰の嫌いはあるけれども、この肩の力を抜いた粋さが本当に格好いい。70年代のスカした刑事ドラマの諸要素を用意していました。見事なるこの作品に再評価の誉れを。

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