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フォーエヴァー・モーツァルト

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5.0

ネタバレあんさん、ええ加減にしなはれ。

冒頭、「FOR EVER MOZART」のタイトル文字にベートーベンが鳴り響くぐらいたいして驚かない。『カルメンという名の女』だってビゼーのビの字もなかった。 ベートーベンとラストのモーツァルトの間にかかるのが、大好きなビヨルンスタ、ダーリング、リピデル、クリステンセンの『The Sea』というのが嬉しかった。海岸場面の《波》の美しさは相変わらず流石であります。 しかし、クライマックスが海辺だから『海』とはいい加減ではある。 このいい加減さはほぼ全編にわたって猛威を奮っている。 サラエボでマリヴォーを上演しようと台本購入の為近くの本屋に寄ったけどなかったからミュッセに変更するいい加減さ。 ボスニアの森の中の収容所での軍事組織、国際赤十字特使らのシーンは、物語上の単純化、抽象化、戯画化というより、いい加減化としか言い様がない。 (因みにここでは戦車が3台も走るし、火薬量もこの監督史上最高です。) 後半の映画撮影現場で、クルーが撮影用の死体をこの収容所からホイホイと調達して来る。物語内の距離感を無視したいい加減さである。 (まさか、現実のロケ地はすぐ近くなんだよ、とか言い出すんじゃないだろうな。) 中々撮影を始めようとしない監督に業を煮やしたプロデューサーが、何ページから何ページの戦闘シーンはどうした!と詰め寄ると、監督はシナリオから該当ページを破り捨て、おもむろに宣言する。 「教訓32、フォード!フォンダ!黄色いリボン!」 ここに、映画とはいい加減であることを映画史的に根拠付けようとする壮大な陰謀が明らかとなる! (もっともこの逸話は『黄色いリボン』ではなく『テンプルの軍使』だそうですが) この老監督を何故自ら演じなかったのか不思議だったが、ラストを見て納得。 コンサート会場の階段の上に座り込み、タバコに火を付ける手を止め、漏れ聞こえるモーツァルトの調べに合わせて指を振る老いた映画監督。 まるで難事件を解決し心身共に疲れはてた私立探偵のエピローグのようである。 本人が演じていたら間違いなく石を投げられていただろう。 「どーせオレはイーストウッドにゃなれねーよ!」 後年、サラエボを舞台とした『アワーミュージック』で、シレッと演っちゃいましたが。 JLHG(ジャン=リュック・ハードボイルド・ゴダール)

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