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誘拐魔

誘拐魔

LURED/PERSONAL COLUMN

102

eig********

4.0

ルシル・ボールの魅力満載の素人潜入探偵物

2022年新年1発目はシネマヴェーラで! メロドラマの巨匠ダグラス・サークによる初期の捜査物のノワールだが、仕上がりとしてはむしろロマンティック・コメディの要素が強い。 ミステリー/ノワールとしては、いろいろと適当なところや冗長なところもある映画だけど、ルシル・ボールのおきゃんで勝気だが構えない陽性の魅力で、ぜんぶ許せちゃう。 その意味で、同じくミステリーとしてはB級だが、ファニー・アルダンの魅力を生き生きとフィルムに焼き付けていることで、すべてがどうでもよくなるトリュフォーの佳品『日曜日が待ち遠しい!』と視聴後の気分はとても良く似ている。 明るくて可愛げのある女性が犯罪者相手に奮闘するなかで、得体の知れない若干疑わしい男性と恋に落ちる(最後まで疑わしい)という意味では、ヘプバーンの『シャレード』なんかとも似たところがある。 まあ、こちらのヒロインは積極的にコスプレ七変化して潜入捜査に乗り出してて、どちらかというと『チャーリーズ・エンジェル』とか『バイオニック・ジェミー』とか『スケバン刑事』みたいな、スリリングbut能天気なテイストがむしろ勝っていて、その意味ではラノベチックなノリで実に楽しかった。 まずは、壁をライトで照らしてゆく凝ったOPのスタッフクレジットから、ぐっと引き込まれる。 お話としては、新聞広告で釣った若い女をかどわかし、警察に犯行声明を詩文の形で送りつけてくるサイコ犯を、警察にスカウトされた踊り子が囮捜査で追い詰めてゆくというもの。中盤は空振り続きなのだが、ボリス・カーロフがカメオ出演で出てきていかれたデザイナー役でとびきりの怪演&階段落ちを見せるなど、なかなか楽しい。 総じて、癖のない手際のよい演出と、小気味いいテンポ感で、100分の長丁場を飽きさせないが、ミステリーとしては先述したとおり、若干バタバタしたり、逆にもたもたしている感も否めない。 警察による安易な一般人のスカウトぶりとか、恋愛に発展する過程の足早な展開とか、偶発的な要素が強すぎるメイド先での不自然なヒーローとの邂逅とか、真犯人の計画のずさんさとか、ラストの拍子抜けするような適当な締めくくり方とか、気になる点も多々ある。 ただ、とにかくルシル・ボールに抜群の愛嬌と度胸があって、それだけでついついヒロインを応援してしまうのも確かだ。 それと、チャールズ・コバーン演じる警部と犯人役の息詰まる攻防は、コロンボや古畑にも似て、本格探偵小説風味の醍醐味を感じさせてくれて、とてもよかった。とある場面での出逢いが一見「偶然」に見える(作り手のご都合に見える)のが、実は「偶然ではない」=「お前が犯人だ」というくだりのロジックも、なかなかミステリー・マインドに富んでいて、個人的に燃えた。 逆にヒーロー役のジョージ・サンダースは、ハリウッド的な色男の「パロディ」のような戯画的な扱いで、作劇上損をしているかもしれない。 なんにせよ、お正月に観るにはちょうどいい感じの、気楽で面白要素満載のエンタメ・ノワールで、満足満足の巻。

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