5.0点
流石ですね、スティーヴン・ノリントン監督。 私好みの映画でした。 監督とは波長が合いそうなので、 次回作等々にもかなり期待したいと思います。 2作以上、好みの作品が続けば、 おそらくその監督とは相性がいいのだろうと思います。 俳優であっても製作であっても、 作風に一番影響を与えるのは監督ですからね。 好きな映画の監督を覚えておいて、 その監督の次回作を観てみる、と言うのも映画選びの一つのコツかと思います。 さて、本作、出足から意味不明で結構難解な部類ですが、 これは監督の"敢て"でしょうね。 本作はスティーヴン・ノリントン監督の要素が全て出切っていて、 悪い言い方をすれば、監督本位な濃い作品です。 それだけに、波長が合わなければかなり難解な映画になるのですが、 逆に本作で波長が合うのなら、 スティーヴン・ノリントン監督の次回作に期待してみてもいいのではないでしょうか。 まず、目を見張るのは監督のセンスです。 映像や編集、シチュエーション。 映像センスとテンポは文句なし。 シチュエーションは、監督のイマジネーションべったりなので、 その点、描写が不可解に写る人もいるかもしれませんが、 私は彼の想像力の深さに脱帽です。 思いつくのと思いつかないの。 作品の幅を広が広いのは前者だと思います。 まぁ本来は、思いついたものを取捨するのでしょうけれど、 本作はそのままてんこ盛り状態で、良くも悪くも監督自身の才能を直で感じる事が出来ます。 物語りも中々興味深いものがあります。 私も大好きな映画「いまを生きる」じゃないですが、 この「いまを生きる」という言葉、当たり前のように使われますよね。 人生は一度しかない。人生は短い。 だから一生懸命今を楽しく生きよう。 本作の主人公はまさにこの典型と言うより、その過度なパターンでなんですが(笑)、 冒頭で語られる 「人生90歳とすれば、日換算で何日で、眠っている時間を省くと何日。 週に換算すると何週しかない。先週何したか覚えてるか?」 という彼の具体的数字は中々興味深く、どういう話なんだ、とググイと引き込まれます。 彼はそれを信念に生きるわけですが、つまる所、 「人生は短いのだから、今を必死に生きてチャンスをモノにせねば。」という、 先ほど語った内容とほぼ共通。 しかし、今を生きる。今を楽しんで充実した人生を生きる。 言葉こそ美しいですが、言うほど生きる事は簡単じゃありません。 どうにもならない事が人生では起きる。 いや、基本的にコントロールできない事の方が大半でしょう。 残念ですが、それが現実でもあります。 「いまを生きる」という言葉は、もしかしたら稀に生まれた人生の成功者か、 それとも今絶頂期に達している者達が、自分達だけに当てはまる言葉かもしれません。 本作、冒頭の言葉が示すような、 「人生は短いんだから必死で生きよう」的な訓示をたれる映画ではありません。 むしろその逆と言うか、言葉に酔って盲目になった人々に、 現実と言う冷や水を皮肉めいて浴びせるような作品です。 だから何?シニカルなリアリスト? そんな嫌悪を感じる人も居るかもしれませんが、 私は理想の暴走は嫌いなので、結構好き(笑) 結論を言えば、言葉だけで救われるほど、 人生甘いもんじゃね~んだろうな~と、そんな事を思うわけです。 劇中で主人公の彼女が言った言葉が中々面白かった。 「大して人生を生きてないのに、人生を語らないで!」 まぁ確かに(笑) つまる所、人生を悟るのは死の瞬間だけなのかもしれません。 ただ、それでも人は人生と言うものを悩みながら生きていく。 答えが出たと思っても挫折し、また模索し、生きている限り模索し続ける。 答えの出ない思考の長旅なんでしょうね、人生なんて。 さて、本作ですが、もう一つ興味深いことがあります。 監督のスティーヴン・ノリントン。 ご存知な方もいると思いますが、「リーグ・オブ・レジェンド」でショーン・コネリーと衝突し、 結果、ハリウッドを去らざるおえなくなったのは有名な話。 ブレイドで絶頂期を向かえ、周りに梯子を突然下ろされ、失墜する。 まさに本作の主人公とダブるものがあります。監督の人生。 面白いのは、本作は「リーグ・オブ・レジェンド」の前に作られたという事。 監督自らの人生を暗示した作品でしょうか(笑) ともあれ、ハリウッドに復帰した監督の次回作、 大いに期待を抱かせて頂きます。 (ただ、本作を人には薦めませんけどね(笑) ハマる人はハマります。)