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過去のない男

過去のない男

MIES VAILLA MENNEISYYTTA/L' HOMME SANS PASSE/THE MAN WITHOUT A PAST

97

dpa********

5.0

ネタバレゼロからの再生、未来には希望がある

 ストーリーは、ヘルシンキに流れ着いた男が記憶を失い、名前を失い、仕事を得て、恋人をつくり、生活を充実させていくという、ゼロからの再生物語だ。でも、一生懸命な感じじゃなく力を抜いた感じで当然のように再生していく。踏みつけられた雑草が静かに起き上がっていくイメージだ。  テーマは「苦い過去を手放し、今という瞬間を生きろ。未来には希望がある」かな。  ある中年の男が夜汽車に乗ってヘルシンキに流れ着いた。公園のベンチで寝ている。突然、三人の暴漢に襲われた。バットで殴られ、蹴られる。大けがをした男は、病院に担ぎ込まれたが重傷だ。脈拍が弱くなって止まった。死亡。  突然、復活、生き返った。折れ曲がった鼻を力任せに捻じって強引に元に戻した。かなり痛いだろうに声もださない。我慢強いやつだ。翌日、男は港で倒れている。子供たちが彼を見つけた。  幸運にもコンテナで暮らす一家が助けてくれた。夫・ニーネマン、かみさん・カイザ、男の子二人の家族だ。男は彼らに優しく介抱されて穏やかに生活をはじめた。  やがて回復してきた男が語る。過去の記憶を全て失ってしまった。身分証もなく自分の名前すら分からない。男はじっと傷が癒えていくのを待っている。  金曜日、ニーネマンに誘われて救世軍の集会に連れていかれた。スープが振舞われる。そこで救世軍で働く女性・イルマと出会う。彼女が気になるが感情を顔に出さない。  警備員のアンティラが寝るところを世話しくれた。カイザがマットをくれた。電気工事屋が捨ててあった壊れたジュークボックスを直してくれた。ガスコンロも見つけた。だんだん住めるようになってきた。ジュークボックスからいい音楽が流れてくる。  金曜日、救世軍の集会でスープをもらう。イルマに「もっとシャンとしなさい」、救世軍の事務所にくるようにと言われた。着替えをくれるらしい。  救世軍の事務所に行った。イルマがすぐに服を出してくれた。サイズも聞いていないのにぴったりだ。前もって選んで用意してくれていたようだ。代金は自立後でいいらしい。スーツに着替えたら見違えるようにカッコよくなった。  彼女が「浮浪者は卒業ね」と言う。暴漢に襲われて記憶がないことを説明した。彼女は信じてくれた。  警備員のアンティラが家賃の取り立てに来た。金曜日まで待ってくれと言うと連れていた犬に「咬みつけ」とけしかけた。犬は相手にしない。犬も迷惑そうだ。家賃を待ってもらう代わりに犬をあずかることになった。犬の名はハンニバル・食人鬼という。 ―― 中略 ――  救世軍の音楽隊4人にレパートリーを増やさないかと声をかける。翌日、救世軍の責任者・インケリに少しぐらい世俗的な曲をやったほうが救世軍の活動にプラスになるよと説明すると、私も若いころは歌っていたのよとノリノリだ。  次の金曜日、救世軍の活動は、インケリのリサイタルのようだ。ムードミュージックだ。集まった人々はダンスを始めた。沈んでいた人々が少し明るくなった。  彼女に土曜日、車でデートしないかと誘ってみた。okだ。彼女はキノコ狩りだという。車に乗って山に行く。ハンニバルもいっしょだ。彼が採ってきたものは不味いキノコと毒キノコだ。彼女がいっぱい採った。料理してくれるらしい。  彼女「この頃、行動的ね。生き生きしているわ。」  彼 「気力がでてきた。君のおかげだ。」 ―― 以 下 略 ――  だれも彼のことを名前で呼ばない。仮の名前さえ付けない。本人も名前がないことを固持している。嘘をつかない。それは名前とは過去を意味するからだ。この作品は「過去は重要じゃない」ということを言いたいのだ。だから誰も彼のことを名前で呼ばない。  フィンランドのアキ・カウリスマキ監督の作品です。一見シンプルな感じなのに次の展開が分からない。各シーンに魅力がある。ソーシャル・セラピー的な映画というらしい。たしかに心地よく後味良い作品でした。シリーズ3部作でこの作品は2作目らしい。1作目「浮き雲」、3作目「街のあかり」も観ようと思う。  それから、主人公のマルック・ペルトラさんは荻上直子監督作品「かもめ食堂」にマッテイ役で出演していた。「かもめ食堂」の特典ディスク、小林聡美さんのナレーションによるフィンランドの町の紹介の中で、彼がフィンランドでは有名な役者さんであるとともにミュージシャンの顔も持つこと、北欧最大級フェスティバルのヘルシンキ芸術際に自分のバンドを引き連れて出場していると照会があった。  そして、フィンランド人はシャイで無表情、感情を顔にあまり出さない。そして、どこまでもマイペースな民族と紹介している。この映画そのものじゃないか。つまり、「過去のない男」は、フィンランド人らしい映画作品ということだ。

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