解説
独自のスタイルを貫き、海外の映画監督たちにも影響を与えている日本アニメーション界の鬼才・押井守。彼が人形というテーマに取り組んだ9年ぶりの待望の新作は、すでに世界中から注目が集まっている。テロが多発する近未来で、少女型ロボットの暴走事件を追うサイボーグ刑事・バトーと人形たちの出会いが退廃的なムードの中で描かれる。機械化する現代社会で、人間の存在価値を問うテーマは、深くて、哀しい。
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あらすじ
サイボーグ刑事のバトーは、体の全てが造り物。残されているのは、素子というひとりの女性の記憶だけだ。ある日、少女型ロボットが所有者を惨殺し、暴走する事件が発生。彼は自分の脳を攻撃するハッカーに苦しめられながら真相を追う。
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映画レポート

「イノセンス」人形と言語で構築された迷宮が立ち現れる
「マトリックス」の元ネタにもなった「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」は、情報の海で発生した新種の生命体であると名乗る身体を持たない存在を登場させ、人間とは一種の情報ネットワークのことなのかという問いを投げかけた。その物語に続く本作は視点を逆に「身体」に向け、人形になりたい男と人形になりたくない少女を登場させ、人間はなぜ自分の姿に似たものを作らないではいられないのかを問う。
しかも、ドラマよりも雄弁にこの問いを発するのは、背景に配された図象群だ。監督によれば、本作では映画の3要素=キャラクター/世界観/物語を、パースペクティブの3区画=近景/中景/遠景に対応させたという。そのため映像に盛り込まれた情報量は凄まじく、まずは、洋館の形をした巨大オルゴールの中に住む人形のふりをした男、「処女」の花言葉を持つ百合を髪に飾った少女型愛玩用アンドロイド、ハンス・ベルメールの球体関節人形、江戸時代の茶運び人形、イタリアの人体模型ラ・スペコラ、リラダンの「未来のイヴ」、漢詩、レーモン・ルーセルの機械愛小説「ロクス・ソルス」、釈迦の言葉等々で構築された迷宮が立ち現れる。そしてこの迷宮の中心に、この問いは待っている。(平沢薫)
3月6日より、日比谷映画ほか全国東宝洋画系にてロードショー
[eiga.com/3月9日]
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2004年3月9日 更新