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エデンより彼方に (2002)

FAR FROM HEAVEN

監督
トッド・ヘインズ
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  • みたログ 709

3.54 / 評価:191件

80年代から浮かび上がるアメリカ

  • hedeade5 さん
  • 2007年5月4日 22時38分
  • 閲覧数 617
  • 役立ち度 1
    • 総合評価
    • ★★★★★

 ヘインズの最新作である『エデンより彼方に』では、50年代の美しい郊外の町を舞台に、当時隆盛を極めたテクニカラーのメロドラマが鮮やかに再現されている。そのインスピレーションの源になったのは、50年代の保守的な社会における抑圧を、メロドラマを通して描きだしたダグラス・サークの作品である。しかし、『ポイズン』でも明らかなように、この映画が50年代に設定されているからといって、ヘインズが50年代を描きだそうとしているわけではないし、サークに対する緻密なオマージュに終始しているわけでもない。ここでも彼がこだわるのは80年代である。但しこの映画は、レーガン政権によって80年代に50年代の保守的な価値観が復活したことを、50年代の世界を通して描くというような、いまでは一般化しているアプローチとは明らかに一線を画している。

 このドラマに盛り込まれたエピソードは、50年代のメロドラマの枠組みを少しも崩すことなく、80年代の状況に見事に呼応していく。新聞社が取材に来るほどのヒロインの理想的な主婦像、あるいは家族像は、彼女を取り巻くコミュニティの羨望の的になっている。しかし、それが彼女の足枷に変わっていくとき、80年代に共和党によって喧伝された"家族の価値"というスローガンの呪縛が見えてくる。ヒロインは、黒人の庭師との絆を通してよりリベラルに変貌していくが、そんな彼女に対する白人コミュニティの圧力は、フェミニズムに対するバックラッシュに繋がる。

 ヒロインと庭師の関係は、黒人のコミュニティにも波紋を投げかけ、庭師は孤立するだけではなく、同胞からの攻撃にさらされる。80年代には、保守化によって黒人のコミュニティにおける中流と下層の二極分化が表面化し、黒人社会のなかで対立が起こった。ヒロインの夫は、妻に自分がゲイであることを告白し、その病気を治すために精神科医の治療を受ける。ゲイを病気とみなすことは、ゲイとエイズの結びつきそのものだが、先述したように病気は自分を発見する機会でもあり、夫は家族の価値の呪縛から解放されていく。

 さらに、このヒロインの運命は、現代のゲーテッド・コミュニティを想起させる。80年代以後、『SAFE』の背後にあるような現実から、セキュリティに対するパラノイアが広がり、周囲を壁やフェンスで囲い、ゲートによって部外者の出入りを制限するコミュニティが急増した。そのゲートは、人々を内と外に明確に分けてしまう。『エデンより彼方に』のヒロインは、そんな見えないゲートの前に立たされているともいえる。この映画では、 50年代のメロドラマのなかに、80年代に対する鋭い洞察と毒が埋め込まれ、簡単には拭い去ることができない不穏な空気を生みだしているのである。

 トッド・ヘインズは、現代社会の基盤をなす80年代にこだわり、独自の映像言語でそれを掘り下げることによって、アメリカのダークサイドを浮き彫りにしているのだ。

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

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