ソラナス・イマジネーションの到達点
- 一人旅 さん
- 2017年2月25日 23時51分
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フェルナンド・E・ソラナス監督作。
生き別れた父親に再会するため、アルゼンチン最南端の島から遠くメキシコまで旅する高校生マルティンの姿を描いたロードムービー。
南米縦断映画と言えばウォルター・サレスの傑作『モーターサイクル・ダイアリーズ』(2003)。そして、南米(ブラジル)を舞台にした少年の父親捜しの旅はまたまたサレスの傑作『セントラル・ステーション』(1998)がある。本作は“南米縦断×父親捜しの旅”で、アルゼンチン最南端のフエゴ島ウスワイアに暮らす高校生マルティンが、鬱屈した生活から抜け出し幼い頃に生き別れた父親に再会するため、自転車でメキシコを目指すというお話。ただ、ストーリー重視の写実的なロードムービーではなく、幻想的で非現実的な映像が独特のリズムを生む異色作で、現実と幻想がない交ぜにされた作風が凄烈に印象的。
マルティンの旅を通じて浮き彫りになるのは、南米の歴史と現実。一部アニメーションを用いながら白人入植者によって搾取されてきた南米の人々の悲惨な歴史を辿り、奴隷労働を彷彿とさせる過酷な鉱山労働に従事するマルティンの姿を通じて経済的に困窮した生活を強いられる現地住民の厳しい現実を想像させる。
巨大な建造物が一挙に崩れ去る破壊の映像や、政府の要人と思しき肖像画が次々落下する場面、洪水により水没したブエノスアイレスの非日常的な世界観、マルティンの前に度々姿を現しては消える赤い服の女の存在など、象徴的なシーンも豊富。南米縦断を主題にした単純なロードムービーとは一味も二味も違う、南米特有の混沌とした多様性の過去と現実を、幻想的映像を交えながら叙情的に映し出す。
ユーモア溢れる描写も目白押し。島が丸ごと傾斜して住民が右へ左へてんやわんやしてしまう摩訶不思議な場面や、辺鄙な農村に“税金徴収車”が到来してプチパニックが発生する場面は特にユーモラス。
掴みどころのないマルティンの壮大な旅は、やがて失われていた家族との絆の再確認へと終着していく。父親の不在と母親・義父に対する反発心から半ば家出のようなかたちで南米縦断の旅へと飛び出したマルティンだが、行く先々で出会うさまざまな人との交流を通じて父親の面影と深い愛情を確認していく。南米大陸の圧倒的なスケール・多様性を前に、精神的な自立を果たしていくマルティンの表情はすっきり晴れやか。後味がいい。
南米の歴史・経済・政治・文化・自然美…ありとあらゆる要素が凝縮されたイマジネーション溢れる異色作。オーソドックスなロードムービーに飽きてきた人におすすめ。
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