日記に鍵が掛かっていても意味無いじゃん!
- bakeneko さん
- 2015年8月24日 7時12分
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- 総合評価
マルガレーテ・ベーメの小説を元にして、G・W・パブスト監督が「パンドラの箱」で唯一無二の魅力を発散したミューズ=ルイーズ・ブルックスを再起用して創った“転落劇”の傑作で、人間の暗部と社会の過酷さへの冷徹な眼差しと緊迫したドラマ展開、そして零落しながらも光り輝くヒロインに目が離せない映画であります。
ワカメちゃんヘアスタイルに“どえん”な体型ながら、スクリーンの中で輝き続ける魅力の持ち主:ルイーズ・ブルックスの魅力が物語を牽引している作品で、数奇な運命に翻弄されるヒロインを見つめる作劇としては「テス」、「ライアンの娘」、「西鶴一代女」、「真夜中の向こう側」「風と共に去りぬ」「罪物語」…の原型であるといえます。
ドイツの旧弊な薬局経営一族の娘であったヒロインが、好色な寡だった父親のメイドへの火遊びを発火点として転落していく様子を、過酷な現実&人間の本質を仮借なく描きながら見せて行く作劇となっていて、クロースアップで人物の表情を見つめる長廻し映像手法が、人間の欲望の醜悪さをグロテスクに拡大して、ただならない緊張感を生み出しています。
深窓のお嬢様から娼婦へと堕ちていく転落譚ですが、ヒロインのルイーズ・ブルックスの七変化を見せる為に物語が展開する面もあって、おかっぱ&日本の法被姿(宮組の文字が…)から、感化院のユニフォーム、ドレスアップ各種、喪服、水着…と様々な衣装を纏って魅せてくれます。
ヒロイン以外の登場人物に特異&エキセントリックな性格付けも強烈で、特に感化院の尼僧(太鼓叩いて大興奮!)&監督官(院生をネコの様に首根っこを捕まえる体力差が不気味!)の変態ぶりは凄い!
そして、1920年代のドイツの街並みや風俗も活写されている作品で、女性のファッションや海水浴スタイルは興味深いものがあります。
後年の世界の映画に影響を与え、数知れないオマージュシークエンスを生み出していますので、“あの映画のあのシーンの元はこれだったのか?”と驚かされますよ!
ねたばれ?
本映画はラストが、「浪花哀歌」他、多くの溝口健二映画の元ネタであります(そしてあの食事シーンは「ベンハー」のガレー船シーンの元ネタかな?)。
おまけーレビュー項目にない戦時中の傑作古典の紹介を!
ジュディが歌う♡ジーン・ケリーが踊る!
For Me and My Gal (1942年アメリカ104分)監督:バスビー・バークレィ、主演:ジュディ・ガーランド、ジーン・ケリー
1916年のアメリカでボードビルの芸を売り物にして一流劇場での舞台を夢見る実在した芸人男女(ハリー・パーマー&ジョー・ヘイデン)の奮闘とロマンス、そして第一次世界大戦に巻き込まれていく様子を名曲と超絶パフォーマンスで魅せてくれる“芸道もの+社会ドラマ+恋愛劇”の傑作で、ジーン・ケリーのデビュー作でもあります。
巡業中に知り合ったミュージカル団員のヒロインと新進のピン芸人のコンビ結成→恋愛→衝突→和解…を次第に戦雲が垂れ込めてくる世相の中に描いて芸人魂と男女の愛を謳いあげた作品で、歌だけでなく演技でも魅せるジュディ・ガーランドに、後の「スター誕生」で見せる役者としての力量を予感させます。また、本作がデビュー作のジーン・ケリーも“高慢で自己中な男”を見事に演じて、劇中のキャラクターの人間的成長譚に引き込んでくれます。
もちろん名曲&名パフォーマンスが目白押しの作品で、主題歌の"For Me and My Gal"以外にも、
"Oh, You Beautiful Doll"
"When You Wore a Tulip and I Wore a Big Red Rose"
"After You've Gone"(この一曲だけで元が取れます!)
"Ballin' the Jack"
"There's a Long, Long Trail"
"It's a Long Way to Tipperary"
"Goodbye Broadway, Hello France"
"When Johnny Comes Marching Home Again"
"Pack Up Your Troubles in Your Old Kit-Bag, and Smile, Smile, Smile"…と20曲余りの歌と踊りを魅せてくれます。
そしてジャズ&ポピュラー曲だけでなく、本職のオペラ歌手である「未完成交響楽」などのマルタ・エゲルトが"Till We Meet Again"をクラッシックな歌唱法で聴かせてくれます。
また、友人役にジョージ・マーフィー、ジュディの弟に「パリで一緒に」や「刑事コロンボーロンドンの傘」などを監督するリチャード・クワインが顔を見せています。
第2次大戦中の1942年に創られた映画らしく“戦意高揚プロパガンダ”色もはっきりと見えますし、映画のエンディングに“あなたがこの映画を観た劇場で売っている国債を買いましょう!”と提示される作品ですが、芸に生きるエンターティナーの生き方と男女の恋をロマンチックに描いた名作であります。
ねたばれ?
志願兵募集のキャラクターは陸軍、海軍、海兵隊とみんな違うんだ!(最も有名な“アンクル・サム”は第一次世界大戦当時の陸軍募兵ポスター)
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