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ローレンの反撃

ローレンの反撃

THE CROSS OF LORRAINE

91

rup********

4.0

ネタバレジーン・ケリーの闇(病み)演技が印象的

タイトルバックに自由フランス軍の旗印であり、本作のタイトルにもなっているロレーヌ十字が映し出され、『ラ・マルセイエーズ』が高らかに鳴り響いて始まる戦時中のレジスタンス映画。 第二次大戦下のフランスにおいて、各地から集結したフランス兵たちが侵攻してきたドイツ軍に戦いを挑むものの敗れて投降。彼らはドイツ軍の捕虜収容所に送られ、捕虜としての過酷な日々が始まることに…。 MGM作品だけあって、多彩な俳優陣を起用していて、ジャン=ピエール・オーモン、ジーン・ケリー、リチャード・ウォーフ、ジョゼフ・カレイア、セドリック・ハードウィック、ヒューム・クローニンといったところが捕虜となったフランス側の主要な面々。 オーモンだけはフランス人俳優がフランス人を演じているので、他の捕虜役の俳優と同様に会話が英語でも、あまり違和感なく観ていられます。 前半は収容所内の集団劇といった内容で、ここで印象に残るのは、捕虜たちの中でドイツ語が話せる一人であるデュヴァル。 通訳担当として特別待遇を得て、ほかの捕虜たちよりも優位に立つ存在となったために鼻つまみ者となり、仲間たちの罠にかかってあわれな最期を迎える場面が凄惨な印象を受けます。 状況に応じ、権力者に日和ってずる賢く立ち回っていくスネ夫タイプの男をヒューム・クローニンがかなりいやらしく好演。 デュヴァルの後釜として通訳をやることになる弁護士のポール役がジャン=ピエール・オーモン(当時マリア・モンテスの夫でティナ・オーモンの父親)で、収容所からの脱走を計画し、中盤以降の中心的存在となります。 ヒーロー的な役割を与えられているため安定感があるものの、心理的葛藤が少ない分、印象に残りにくい感じはありました。 宗教家としての矜持を貫き銃殺される神父役セドリック・ハードウィックの渋い演技や、脱走には参加せず捕虜仲間の診療にあたる外科医フランソワ(「雲流るるはてに」などの監督としても知られるリチャード・ウォーフ)の職務に徹する姿も心に残ります。 さらに、収容所の冷酷なナチス軍曹ベルガー役には悪役スターの代表格の一人であるピーター・ローレを当てているという充実ぶりですが、終盤には割と簡単にポールに騙されてしまったりしてちょっと情けなく、典型的な敵役といった感じの扱いになっています。 そして、個人的にもっとも強く印象に残ったのが、ミュージカル俳優として本格的に売り出す前のジーン・ケリーで、反骨精神に溢れるヴィクトル役。 反抗的な態度をとり続けたため、ついには独房に入れられ、鎖に繋がれてしまうのですが、ベルガーの顔に唾を吐きかけるシーンが印象的。 ヴィクトルは、徹底的に拷問を受け、命に危険が及んでようやく独房から出されると、完全に闘志を挫かれ恐怖に支配されていて、反抗心を一切失った別人のようになってしまう。 この前半と後半の変わりようを等身大の人間らしさを感じさせる演技でみせていて素晴らしい。 歌もダンスもない作品での純粋に俳優としてのケリーの実力をみることができます。 ただ、ラスト近くでポールがドイツ兵に撃たれ、少年が蹴り倒される姿を見て、再び闘志が甦り、占拠された村の人々が蜂起するきっかけを与える役割を果たすという辺りは、ヒロイックではあるものの、あからさまに戦意高揚を目的とした展開なので、この点に関しては戦時中の作品であることを強く意識させられました。 ケリーの陽キャラが確立する「錨を上げて」以前の作品には、内面の弱さや葛藤、心の闇を感じさせる役どころが多く、スクリーンデビュー作の「For Me and My Gal」からして、明るいミュージカルナンバーとは裏腹に、兵役から逃れるために自分の指を潰すといった独りよがりな行為をしてパートナーから愛想を尽かされる場面がシリアスに描かれていましたし、「クリスマスの休暇」の殺人犯の青年役などもその一例でしたが、本作もケリーの闇(病み)演技が観られるという点では珍重すべき作品かもしれません。

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