約30年ぶりに観て知った真実からの妄想。
- おりょう@柿の種梅味が好き さん
- 2020年7月1日 17時38分
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■実はアメリカンニューシネマだった(?)
主人公が社会的敗北を食らい続けるアメリカンニューシネマに疲れてしまった観客が、自分に勝利し、何者であるかを証明する姿に感動し、映画の流れを変えた作品なのだと認識してたけど、そもそも本作の脚本はニューシネマ的だったのだと今日知って、これについてちょっと考えてみた。
スタローンが書いた最初の脚本のラストは、タイトルマッチ直前に酷い人種差別発言をしたトレーナーのミッキーに嫌気がさしたロッキーが、試合を捨てて去っていく場面だったとか。
これに当時の夫人サーシャが、「こんなの観たくない」と言ったのでスタローンは脚本を書きかえたと伝わる。
逃げたロッキーは、いわばニューシネマにおける社会的敗北者と変わらない。何も証明することはなく、また明日から高利貸しの手先となり、路上に立っただろう。
と思ったのだけど、もしかしたら最初の脚本で試合を投げ出した理由はほかにもあったのではないだろうか。社会の真実を見ようとし続けてきたスタローンのことを思うと、そんな気がしてきた。
■自分や友知人の生活と掛け離れた、もう一方のアメリカの現実
精肉工場に来たディレクターは明らかに滑稽な挑戦者としてロッキーを扱う。
アポロとの共同インタビューでもメディアはどこかロッキーを小馬鹿にしていて、アポロの上から目線は露骨。
そんなメディアやチャンピオンの食い物にされてる事実に気づき、ミッキーの発言で爆発したのではないだろうか。アメリカンドリームなどクソ食らえだと。ニューシネマ的だ!
ただ、考え方次第では、地に足を付けた判断で勝利を掴んだとも言えるので、やはりニューシネマに終わりを告げる作品であったのかも知れない。
この妄想を、書きかえた脚本どおりに行った撮影と、撮りなおされたラストシーンについて、さらに膨らませてみたい。
■キービジュアルの2人
手を取り合って歩いていくシーンは映画に登場しない。
書き換えた脚本は、試合に敗れたロッキーとエイドリアンがひっそり会場を後にする姿で幕を閉じる。撮影はこのとおり行われ、それがキービジュアルに採用された。ところが、数か月後に、僕たちが見続けてきたあのラストシーンが追加撮影され、変更されたのだそうだ。
■最後の妄想
最初に撮影されたラストシーンに掛かる曲はThe Final Bellではなく、Gonna Fly Nowのピアノ演奏による静かなエンディングだったかも知れない。それはそれでしっとりとした味わいのあるラストシーンであっただろうと思う。ただしこの場合、2人の愛は掴んだけれど(それだけでも十分にニューシネマとの違いはあるが)、社会的敗北者感は残りそう。
ラストシーンを思い出してみよう。
ジャッジに耳を貸さず、インタビュアーも無視してエイドリアンを必死に探すロッキー(書きながら泣いてる)。
この姿が示すものはなんだ。
最後まで立ち続けて自分に勝利したロッキーがいる。
ただのゴロツキではないことを証明した男として。
日常生活の中で、昨日までの自分に決別してきたエイドリアンがいる。
ロッキーが新しく見つけた現実の象徴として。
もはや、チャンピオンベルトも、露骨に見下していたチャンピオンも、コケにし続けたメディアも現実のものではない。
全部クソッタレだ!必要のないものだ!不要不急なんだ!
そんな価値観の放棄とアンチ社会的な叫びを含んだうえに、自分を諦めないことこそが心にアメリカンドリームを掴むのだというメッセージによって、ここに、ニューシネマは潰えたのだ。(ニューシネマ大好きだけど)
一見、シンプルisベストと言えるラストシーンだったけど、制作の過程で熟考に熟考を重ねられた事実から妄想を膨らませることによって、アメリカンドリームのことなど知ったこっちゃない日本人の心にも深く刻まれ、いつまでもアンセムであり続けるのかも知れないという個人的な答えを見つけました。大事にしよう。
■ついでに
ステディカムによる初の映画撮影が行われたのが本作で、低予算ながらも技術革新の波をとらえた作品であったのかも。走るロッキーにオレンジを投げる人がいたけれど、ステディカムが小さくて映画の撮影してるのだと気づかなく、ランニングしてる兄ちゃんに思わずあげただけという偶然の名シーンが、そんな背景によって生まれただなんて、CGだけで映画作ってるとこんなことってないんだろうなと感慨深いものがありますね。
ジョン・G・アビルドセンの、本当にパッとしないフィルモグラフィーの中で燦然と輝く「ロッキー」。俺を忘れるなと「ベスト・キッド」も光っているけれど、アビルドセンにとっても本作はスタローン並みに賭けるものがあったのかも。それは、タリア・シャイアにも、バート・ヤングにも、バージェス・メレディスにも言えることだったのかと思うと、死ぬまで泣ける。
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