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ロレンツォのオイル/命の詩

syu

4.0

ネタバレこの映画は本当に作るべきだったのか

息子の苦しむ様子と、母親の執念の演技が本当にすごくて、後半は献身的な人々に恵まれ、最後には希望を持てるような終わり方をしていて、映画としては見ごたえがありました。 ただ少し疑問に思うようなこともあり、現実にはどのようなことが起こっていたのか知りたくなり情報を探そうとしたところ、ウィキペディアに短くですが実際の出来事とその後が書かれていました。 作中で疑問に思ったのは、本当にこのオイルは効果があるのか?ということです。子供を助けるために急がねばならなかったのは当然としても、臨床データを集めないままオイルが広まってしまいました。悪役に書かれがちだった医者ですら、効果がわかってないうちに広めてしまい、駄目だったときの落胆について忠告していました。 作中では、息子が意思疎通を取り戻し、もうひとりのふとっちょの子供が元気になったと親が証言し、エンディングではロレンツォのオイルによって救われたとされる実在の子供たちのたくさんの写真で締めくくりました。 しかし実際には、血中濃度は下がっても治癒することは少なかったということらしいです。2005年に効果があることを証明した論文が出たようですが、映画から10数年経過してやっと出た肯定的な論文ですら、オイルは予防的にしか使えないということでした。 事実に目を向けると、ロレンツォが発症したのが1982年で、映画が1992年に作られ、母親は2000年、2008年にロレンツォが、2013年に父親がなくなったそうです。 私が思うのは、この映画が出たせいで当事者がかえって苦しむ結果になってしまったのではないかということです。この映画はオイルの効果をドラマチックに演出し、見るものに希望を与えるような作りになっていました。しかし実際には治癒しなかった患者が多く、オイルは民間療法呼ばわり、高価だったためか、ひどくすると詐欺だなどと言われていたらしいです。 息子がこの状態で、世界中から詐欺師呼ばわりされていたなんて、想像するだけでもむごいです…。現実の話ですからね…。 映画製作側におごりはなかったか、本当にロレンツォの家族のことを考えたのか、感動させるために安易なシナリオにしてしまったのではないかと、制作側の姿勢に強く疑問を感じます。 少なくとも、オイルの治癒効果があることが医学的に証明されてから映画を作るべきだったと思います。私には、映画製作の興味を優先し、当時から意見の分かれていた治療法を、都合よく全員に効くかのように脚色してしまった、とても悪質な映画のように見えます。 事実をもとにした映画は、当事者が不幸にならないことをまず第一に考えて作らないと、こういう事になってしまうのだなと思い知らされました。せめて架空のフィクションとして作れば、詐欺師などと名指しされることもなかったでしょうに。批判されるべきはロレンツォの家族ではなく、制作側です。

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