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上海ルージュ (1995)

SHANGHAI TRIAD

監督
チャン・イーモウ
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3.96 / 評価:23件

計算に成り立つ叙情性

  • lamlam_pachanga さん
  • 2010年8月11日 0時46分
  • 閲覧数 886
  • 役立ち度 2
    • 総合評価
    • ★★★★★

80~90年代半ばにかけての中国映画界の黄金コンビとも言えた、張芸謀(チャン・イーモウ)と鞏俐(コン・リー)による叙情性溢れる黒社会映画。両者のコンビはこの作品をもって一旦解消、再会は11年後(06年の『王妃の紋章』)までお預けとなった(原因はふたりの不倫関係に終止符が打たれたことと無関係でもないとか)。

この時期(90年代初期)の張芸謀は、社会派リアリズム的作風を打ち出していたことはファンなら先刻ご承知のことでしょう。個人的には彼の映画の中では唯一のお気に入りと言える『秋菊の物語』や、中共の怒りを買った『活きる』等、89年の「六四事件(天安門事件)」以降、根城としていた西安電影製作所(呉天明/ウー・ティエンミンが所長を務めた映画撮影所。多くの「第五世代」を育てた)の後ろ盾を失った「第五世代」の面々は、厳格化された検閲システムの中、その作風の転換を迫られていたわけですが、それは張芸謀とて例外ではなかった様です(同様に陳凱歌(チェン・カイコー)も『さらば、わが愛/覇王別姫』以降、それまでの叙情的作風から転換を図っています)。

『活きる』での中共との対立に辟易したのか、これ以降、張芸謀は新たな作風を模索し始めた様に感じます。その最初の作品が『上海ルージュ』であり、デビュー当時(『紅いコーリャン』、『菊豆』等)の叙情性を残しながらも、それ以上に娯楽作品としての様相を求めた様子が垣間見える作品です。

本作は、ひとりの少年の眼を通して語られる、黒社会のボス(李保田)の情婦である歌姫(鞏俐)の物語。彼女の世話役に任ぜられた少年は、7日間の間に起こる様々な出来事を通じ、人間の哀しき性と世の悲劇を悟ります。

ともすれば有り勝ちな物語にこれほどの叙情性を与えたのは、少年の目線を盛り込んだ張芸謀の演出にあることは間違いないでしょう。物語自体はさして真新しさもなく、畢飛宇(ビー・フェイウー)の脚本は平板に過ぎないとも言えますが、この映画が数多ある黒社会映画と一線を画すのは、この「少年目線」と言うフィルターを設けたことが大きい。これにより、本来ドス黒く、濁り切った黒社会(人間)の有様を、叙情的ファンタジーとして語ることに成功しています。但し、それを好むかどうかは別の問題で、私はこの計算が先に立つ張芸謀の演出がどうにも好きになれない(ファンの方、申し訳ない)。

又、本作は張芸謀自身が「失敗作」と認める様に、決して諸手を挙げて賞賛するものでもないでしょう。物語の起伏を欠く上に、人間の性が一気に表出する終盤の盛り上がりも李保田(リー・バオティエン)の演技に負うところが大きい。張芸謀が叙情性を前面に押し出したと思われる後半の演出は、本作と共に「紅の三部作」に名を連ねる『紅いコーリャン』の神話性、或いは『菊豆』の悲劇性に迫るものではありません。

決して「失敗作」と評す映画ではありませんが、さりとて「傑作」とも呼べぬ作品。

ただこれは、本作が見所に欠けると言うことではありません。

後半、主人公の歌姫・金宝(鞏俐)が少年・少女と共に湖畔に立つ場面。あの場面に漂う叙情的美しさと三人の歌声は、終始暗鬱たるこの映画にあって、ほとんど唯一と言える無垢なる場面。映画の好き嫌いは別にして、個人的には、このシーンだけでも観て良かったと思うに充分なものがありました(10年以上経った現在もハッキリと憶えています)。

主演の鞏俐と李保田の演技もそのひとつ。今更私がどうこう言うものでもないでしょうが、このふたりはやはり素晴らしい。ただ、本作に関しては、私は鞏俐よりも李保田に圧倒されました。鞏俐の巧さは相変わらずですが、李保田の存在感は、特に物語が佳境を迎える終盤(ふたりが正対する瞬間)において完全に鞏俐のそれを上回っていたと感じられるもの。このふたりの演技も観る価値はあると言えるでしょう。

とは言え、かなり穿った捉え方なのは承知していますが、溢れる叙情性すらも妙に計算された感がどうにも拭えないも事実(苦笑)それが悪いわけではないし、確かに平板な脚本を見事に装飾してしてしまう演出はお見事です。それでも、結局のところ、この人の(計算づくの)演出を好むか好まないか。

張芸謀の映画は、総じてそこが分かれ目とも言えます。

私の様にそこを嫌う人にはあまり推薦出来ない作品。

但し、前述の湖畔のワン・シーン。

あの場面までを否定する気にはなれません。

詳細評価

物語
配役
演出
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音楽

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