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女人、四十。

女人、四十。

女人、四十。/SUMMER SNOW

101

cin********

5.0

ネタバレ女人、四十。

冒頭、主人公である中年女性が登場するエピソードが面白い。  魚屋での買い物のシーンなのだが、生きている魚を買おうとしてお金を払った彼女に店主は、足りないよ、と言う。あの値札は死んだ魚のものなのだ、と。この直後の彼女の行動が圧巻。なんと店主が目を離しているすきに魚に一撃を加えてしまうのだ。そして一言「死んだわ」。  これだけの短いやりとりで彼女の勝ち気な性格が伝わってくる実に巧いエピソードだと思う。こうした軽妙で、卓越した人物描写が本作の魅力であることを、まず指摘しておきたい。    ストーリーはそうした勝ち気な彼女がアルツハイマーを発病した舅の面倒をみるという話なのだが、この説明だけでは「ボケ老人の看護の話なんて、そんな重たい話はごめんだよ」と思われるかも知れない。しかしそうではないのだ。  前述したように本作の魅力の一端は優れた人物描写にあり、頼りなげな夫や人生を謳歌しているかに見える大学生の息子、といった家族の肖像が良質なエピソードとともに描かれる。そしてそれは痴呆症の舅も例外ではない。監督はボケ始め、社会の規範から外れていく彼をあたかも俗世を超越した存在のごとくユーモラスに描く。そう、実は本作は良質のコメディなのだ。ボケ老人の介護という人生の「暗」の部分も別の角度から見れば、明るく輝いて見えるのではないか。「暗」を「明」に変える監督の柔軟な視線、そしてそれを支えるコメディセンスが何より嬉しい。  僕は寡聞にしてアン・ホイ監督の他の作品を知らないが、このコメディセンスは一朝一夕のものとはとても思えない。  監督はこの物語を通じて観客をどこへ導こうというのか?その着地点はどこなのか?  人生の「暗」の部分も含めて全てをありのままに受け止めようとする主人公の姿は自然体で何の気負いもない。そこにあるのは全てを背負い込んでも、なお、人生は生きるに値する、という生きることの力強い全肯定だ。その答えはあまりにシンプルで、だからこそ直截に僕の胸をうった。

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