レビュー一覧に戻る
エル・スール

kin********

5.0

ネタバレアートシアター系の傑作

分類すればホームドラマになるのだろうか。ほぼ全編が、父と娘の微妙な心理のかけひきで進行する。アートシアターで単館上映されるタイプの映画の中には、いかにもそれっぽい描写があるだけで、結局よく分からない映画も多いが、この映画に私は、少々大げさに言うと打ちのめされた。それくらい説得力を持った作品になっている。 大人の世界の象徴として提示される「エル・スール」。そこがどんなところであるのか、少しずつ手がかりが示されていく。 ・スペイン内戦後の独裁政権が支配 ・父は祖父と政治的問題から不仲で、北の現地に移住した これらがセリフで説明されたあと、娘の聖体拝受のため、祖母と女中が「エル・スール」からやって来る。このミラグロスという女が魅力的で、遠慮ないおしゃべりが決して井戸端会議のレベルではなく、娘に様々な示唆を与える。  そして鍵はイレーネ・リオスという芸名の女優の存在。どんな事情か深い説明はないが、父の心の中では極めて大きな存在。イレーネ・リオスの存在を娘に知られた時、父は猟銃自殺を遂げる。  その前日、父娘がホテルのカフェでランチをとるシーンが秀逸。とりとめのない会話の中、ところどころで二人の心の奥が顔をのぞかせる。父娘であっても、なかなかむき出しの本音は出さない。おおかたの理解はできるが、自殺までは予想できなかった。  イレーネ・リオスにかけたと思われる長距離電話のレシートを娘が隠し持つ心情はよく分かる。しかし、ツンボ桟敷の母親は哀れだ。まあビクトル・エリセの視点は父と娘にあり、母親の手当てまで出来ないのは2時間弱の映画では仕方ないけど。 「ミツバチのささやき」はイレーネ・リオスに似た存在が母親のほうにあり、手紙の朗読だけではさすがに説明不足だったという反省から、劇中に彼女の出演する映画を入れたのだろう。「日陰の花」という題名のこの映画、日本では未公開のスペイン映画なのか。もし「エル・スール」のために作った架空の映画なら、そのクラシックなムードが凄い。  声だけ登場するカリオコというあだ名の、娘に恋する男の子のエピソードはあまり活きていると思えず。娘の幼年期を演じた子役はもう一つ、感性が鈍い印象。成長したほうは素晴らしい。父、母、祖母、ミラグロスを演じた俳優たちも見事。特に父の、抑えた演技の中に、心理を浮き上がらせているところ、完璧と言っていいと思う。

閲覧数746