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エル・スール

一人旅

5.0

ネタバレ凍結した父の過去と想いを娘が溶かしてゆく

ヴィクトル・エリセ監督作。 エストレリャは父アグスティンと母フリアと暮らしている少女。ある日、父の持ち物を見たエストレリャは知られざる父の過去を知っていく・・・。 父に関して知っていた気でいて、実は全く理解していなかった父の過去と“南”への想い。 未熟だったエストレリャの心が、父の過去と秘密を通して成長していく過程の描き方が秀逸だ。 エストレリャと父アグスティンの間にはどこか距離がある。エストレリャが突然いなくなった時も父は娘を探そうとしなかった。また、エストレリャはカフェで誰かに手紙を書く父を、曇った窓ガラスを挟んで目撃する。この妙な距離感。父が自ら全てを打ち明け、南への想いを吐露することは望めないと悟ったエストレリャは、父に対する自らの想いで父の記憶と足跡を探していく。 象徴的な映像も印象的。 母フリアが赤い毛糸を巻き戻していくシーン。遠く過ぎ去り忘れ去られていた父の過去が、現在になって再び想い起されていることを象徴しているように見える。それはもちろん、エストレリャの父に対する想いの増幅がきっかけになっている。 父が愛用していた振り子。この振り子を使って父は水脈を見つけていたのだが、この振り子は時計の振子であるとも受け取れる。凍結していた父の過去の時間が、これもまた娘エストレリャによって雪解け、再び動き始めたことを意味しているようだ。 終盤の肉体的にも精神的にも成長したエストレリャには強い決意と意志が見られる。 父が“南”に遺してきた家族や故郷への想いを、父の代わりにエストレリャ自らが回収しにいく決意だ。

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