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エレファント (2003)

ELEPHANT

監督
ガス・ヴァン・サント
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  • みたログ 1,841

3.80 / 評価:354件

『エリーゼのために』を弾く犯人の少年

  • yab***** さん
  • 2018年12月28日 20時55分
  • 閲覧数 768
  • 役立ち度 0
    • 総合評価
    • ★★★★★

 普通の繊細な高校生ふたりが、12人の同級生と1人の教師を銃で射殺するという凄惨な事件。かのコロンバイン高校事件をガス・ヴァン・サントが、静謐で淡々とした映像で描く。

 体育会系の生徒からいじめられていたクラシック好きのアレックス。彼はベートーベンの「エリーゼのために」を弾くとても寡黙な少年だ。スポーツが苦手そうで腕力も弱くひ弱なタイプ。喧嘩も弱そうだ。彼の中でもたげてくる強くなりたいという願望。それがいつしかネット販売でライフルガンを購入するに至る。
 いじめの報復を究極の方法でしか成し遂げられないことの深い哀しみ。体育会系に対する羨望と嫉妬。女性に相手にされないことの焦燥。
 そんなことをこの作品は全然教えてくれない。大量殺人の背景に言及してくれない。いつもと変わらない日になるはずだった今日しか見せてくれない。今日の集積自体が心の空洞のような撮り方。アレックスの心の空洞は日常の中に軽々しくも紛れてしまう。そこがとても不気味だ。

 屋根裏部屋のような佇まいの半地下の彼の部屋。その空間に流れる、哀しくもたどたどしい「エリーゼのために」の調べ。誰からも認められることのないその調べを、たったひとりの友人だけが聴いている。共犯のエリックだ。存在自体が空洞化しているふたり。いじめに合っていることに対する打ち震えた怒りがそこにはない。どうにかしようという気もない。パソコンの銃殺のゲームを淡々とこなすだけだ。
 おそらく自己の感情を剥き出しにする習慣を、自分本位の我慢とやらで抑えていくうちに、感情すらもなくなっていってしまったのだ。感情を表に出すということは、自分のひ弱さをさらけ出すことだけだ。そんなことは恥ずかしくてできない。そんな一種の”英雄気取り”が感情を破壊する。破壊された感情は人々の感情には突き刺さることなく、身体だけに銃弾となって突き刺さっていく。そこがとてもやるせない。

 ガス・ヴァン・サントは、この感情の交感がない世界を創出させ、それがアレックスとエリックだけでなく、結局はその高校のすべての生徒に蔓延している様を見事に描いている。
 だから、校舎の外に出ていたジョンが、銃を背中に担いだアレックスとエリックとすれ違い、彼らが、「中に入るな。地獄になる」と言ったにもかかわらず、いまひとつその緊急事態に対する認識に甘さがあることがとても気になった。
 みんな大差はない。ただ何かの拍子にその中のふたりだけが突然変異する。そして体育会系のカッコいいスポーツマンと、かわいい女の子のカップルに銃を向けたときの優越感のみですべてを決してしまう。
 日常の中の異常を、日常自体が異常であるところまで高めたガス・ヴァン・サントの感性は、やはり凄い。

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

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