5.0点
ベルギー映画なんてほとんど見たことないですが、本作の透き通るような映像の美しさ、セリフの数を抑えて映像で心に訴えかける内容は素晴らしいものがありました。 ベルギーののどかな街並み。 そこで平穏な日々を暮らす母ブランシュ、父ジャン=ピエール、息子アルチュールの3人。 ところがある日、沼地で変わり果てた姿となってしまう息子。 その現実を受け入れることが出来ない母ブランシュが、心を再生していくまでの過程を静かに、そして重くも優しい映像とともに伝わってくる内容となっています。 「死んだらどこへ行くの?またお話ししてくれる?」(冒頭の息子アルチュールのセリフ) ある日突如訪れた、最愛の息子の死。 しかし、それを受け入れることが出来ず、心を病んでしまう母親。 木々の合間を名前を叫びながら彷徨ったり、凍った沼地(息子アルチュールの亡骸が見つかった沼地)の上でもがきながら、石で氷を叩き割って息子を探そうとするシーンなどは非常に胸がしめつけられます。 そして、いつしか沼地でアルチュールの幻影と過ごしてしまうまでになってしまいます。 (恐らく)工業排水で出てきた泡でアルチュールの幻影と一緒に遊んだり、インディアンのような模様を顔に描いたり、一緒に周辺を歩き回ったり…。 中でも印象的なシーンは、スーパーのレジの横にある木馬の乗り物(コイン式の動くタイプ)に息子の幻影を乗せて、喜ぶ息子の表情を見ては何度もコインを投入して繰り返す。 しかし、少年の幻影はやはり母親にしか見えておらず、周囲の全ての人物たちは凍り付いたかのように1人で動く木馬の乗り物を見て喜ぶ母親を哀れむような目つきで見続ける。 やがて係員が母親を連れ出すと、店員も客も何事もなかったかのように会計を始める…。 確かにここまで来ると、もはや精神的にも崩壊しきってしまったかのように思われるでしょう。 見ているだけでも痛々しいです。 しかし、そんな母親も1人のバード・ウォッチングの少年(フランソワ)に出会うことで、徐々に心が癒されていきます。 (それにしてもこの少年、個性的なお顔とでも言いますか…) そして、いつしか心の闇が振り払われたとき、突如として大声で泣き叫ぶ母親。 この時、ようやく息子の死を受け入れることができ、同時に一気に襲ってくる途方も無い悲しみ。 非常に印象的です。 ラストもまた象徴的。 スーパーのレジの横にあった木馬。 母親が会計を済ませた後、またコインを入れて木馬を動かすのですが、今度は自らすぐその場を立ち去っていきます。 その直後店内が暗くなり、係員によって木馬が撤去され、変わりに車の乗り物が設置される…。 本作、全編を通してほぼ同じトーンが続くのですが、ベルギーの四季を見事に映し出した風景、自然の美しさ、画面の構成力など、眠くなるどころか目を張るシーンが多いです。 また、雨や池、沼地などの水の描写も印象的。 冷たさと重さを感じさせつつも、温かく、そしてしっとりとした独特の映像美を堪能することが出来ます。 カワセミが魚を捕獲する水中からのショットで始まるオープニングからして、本作の独自の雰囲気に浸ることが出来ると思います。 そしてそれは、時には子供にも牙を剥く大自然の厳しさや凄まじさを表しているかのようでもあります。 全体的にはセリフも少なく、静かな映画でもあるのですが、それを補う映像力とストーリーに心を打たれることでしょう。 ちなみに、本作の監督はこれが長編デビュー作だとか。驚きです。 現在、第2作目を製作中だそうで、これもまた楽しみです。