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箪笥<たんす> (2003)

A TALE OF TWO SISTERS/薔花、紅蓮

監督
キム・ジウン
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  • みたログ 745

2.96 / 評価:266件

二度と開くことのない「扉」

  • inf******** さん
  • 2021年5月11日 3時07分
  • 役立ち度 0
    • 総合評価
    • ★★★★★

本編あらすじからすでにミスリードを誘う本作。非常に巧妙に、複雑に入り組んだストーリーですが、この作品が描いているのは「閉ざされたスミの心」。スミ自身も気づかない深層心理の世界です。
妹スヨンと継母ウンジュを演じていたのがスミだったことを踏まえて、字数制限目一杯、紐解いていきます。

この家の悲劇はスミが父に性的な愛情を抱いたことに始まります。その描写は眠る父の顔を撫で、ウンジュに擬態した人格でベッドに入り父を待つシーンからも明白です。
この映画において現実描写はごくわずかで、大半はスミの精神世界。妄想です。妄想のウンジュはスミの「願望・本心」の表現者であり、スヨンは「愛され守られる無垢」の象徴、スミ本人は「正しさ・呵責」。各自役割を担っています。

家に到着した最初の場面で「ママに似てきた」とスヨンはウンジュに言われますが、この台詞は父が妹を愛する理由としてスミが自身を納得させるためだと思われます。実際、緑のドレスを着た写真の母とよく似てます。
ミスリードでウンジュを父の愛人、やがては継母のように振舞わせてますが、それはスミの妄想であり、現実では(おそらく母とスミの)看護師としてこの家に居る人物です。
実際のウンジュは、父に電話で呼ばれて来た時と、病室(腕を掴まれ恐がる)シーンだけで、他のウンジュはすべてスミの空想です。

冒頭で医師が「あの日、何が起きたのかな。はっきり覚えているはずだよ」と断言しますが、ここ、取り調べのように見えませんか。
これは妹を見殺しにしたのはスミだったことを表しています。もっと言えば母を自殺に追い込んだのもスミでしょう。自殺に見せかけた殺人だったかもしれません。妹を袋詰めにして運ぶ場面、妄想にしては引き摺る途中で足が痙攣するなど描写が妙にリアルです。
母を殺す動機は、おそらく懐妊。当時生理もない娘達に勝つことのできる、母だけの特権。スミとっては父を奪われるだけの存在など邪魔でしかありません。

「空想の達人」
本当の出来事のようにスミは話を作ります。叔父夫婦との会食でスミが話をしている時の二人の顔。その表情は精神を病んだ人への哀れみなどなく、憎しみと怒り(叔父)、または恐怖(妻)のみです。
この時スミは、期待する反応をしない叔父夫婦に妄想で仕返しします。突然叔母が苦しみだし、叔父と父は悪戦苦闘。これが妄想であることは食卓でわかります。
叔母が倒れる寸前までサラダボウルには野菜がこんもりと、肉もかなり残っていますが、騒動のあと、夫妻が帰った食卓のボウルの中には野菜はほとんどなく、肉も減っています。
父が拾っていたのはクラッカーのかけらひとつで、床には細かなクズが落ちてはいるものの、吐瀉物を巻き散らし、濡れた形跡などありません。実際の彼らは重苦しい食事を終えて帰っただけなのです。

「妹の部屋での自殺」
母は妹の部屋にある箪笥で首を吊りましたが、それは何故か。スヨンに対する当てつけと思われます。
おそらくスミは母に、父が性的な目で妹を見ていることを匂わせていた。これは家族写真からの推測ですが、1枚目で父はスヨンの隣で肩を抱き、手を握っています。2枚目もウンジュが端にいますが、父はやはりスヨンの肩を抱き、手も握ったままのようです。
ですが、別の年らしい3枚目。家族から笑みが消え、母は険しい顔で父の隣・中央に君臨し、スヨンは父から離れて怯えた表情でスミに身を寄せています。2枚目同様に笑顔を見せているのは部外者のウンジュだけ。
中盤、ドアを開ける気配に怯えてスヨンがスミのベッドに転がり込む場面がありますが、これは夜に部屋を訪れる父に怯えたスヨンから聞きだした話を元に、空想での追体験でしょう。

父がスヨンに向ける愛を敏感に嗅ぎ取ったスミは、表面上妹の味方を装いながら、母にはそれとなく関係を匂わせ、追い詰めていく。スミは妄想のウンジュに「家族が邪魔」とも言わせているのです。

「冷蔵庫の中の血まみれの塊」
男性の局部らしきそれは、自分自身への禁忌と「汚れ」への恐れ・憎悪が生み出した産物でしょう。父を求めながら嫌悪し拒絶する、分裂した心を持つスミ。
あの日、箪笥の下敷きになった妹を助けることなくその場を去ったスミは廊下でウンジュと鉢合わせしますが、これは妹を見殺しにするのは自分ではなくウンジュなのだと、逃避の心が作り出したものです。

妄想のウンジュに「お前はこの瞬間を一生、後悔するかも。忘れないで」と告げられますが、これはスミの中に眠る良心の叫びです。
妹や母を愛しながら、一方で抱く父への歪んだ性愛と独占欲。一生消えることのない忌まわしい光景。罪の記憶。
ラストに見せるスミの物悲しい表情と美しい旋律が、哀愁を帯びて切ないです。

彼女にとってそれは一生開けてはならない狂気への扉、大切に仕舞っておくべきだった「秘めた心の隠し場所」だったかも知れません。

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

イメージワード

  • 悲しい
  • 恐怖
  • 絶望的
  • 切ない
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