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霧の中のハリネズミ

霧の中のハリネズミ

YOZHIK V TUMANE/HEDGEHOG IN THE FOG/YOZIK IN THE FOG

10

aka********

5.0

幽玄な動く水墨画

ノルシュテイン監督作品の5作目になるが、細かさやこだわりへの追求はここまで来るのか!と感嘆符しかつかない。 児童文学作家のセルゲイ・コズロフの絵本の中から、日本の芸術を想い起こさせる作品として本編を選び、さらにノルシュテインが脚本を書いて話を膨らませたらしい。 まさにノルシュテイン自らが述べるように霧の中で話が展開されることでまるで水墨画を眺めているように心地よい黒白の世界が展開する。 白黒以外で目立つ色は本編途中にワンシーンだけ登場する犬の淡い黄色の両耳と赤い舌、終盤に登場するクマの茶色ぐらいである。 圧巻はカタツムリが徐々に霧の中に消えていくシーンである。まるで日本画で多用されるぼかしの技法を動画で表現するとこうなるとお手本を示されたかのようだった。 とにかく全体的に霧の中からの対象の出し入れそのぼかし加減が全編にわたって抜群なのだ! 今1つの圧巻は巨大な樹を主人公であるハリネズミのヨージックが見上げるシーンだ。 その巨大さを表すために見上げた際に手前となる下方の幹の動きをゆっくりと上方の幹の動きをいくらか速く動かしているのだ。 ちょうど我々が車窓から景色を眺める時、手前のビル群より、後ろのビル群が速く視界から過ぎ去ってしまうのと同じように。 物語の終盤で登場するクマが話す際は口の動きだけでなく口の周りまで動かしている。これによってなんとクマの表情豊かなことか! 灯火にたかる虫によって光が絶えず変化するさまも湛然に描く。 ただ単純に光を照らせば簡単なところを、あえて困難な表現な選ぶところにノルシュテインや美術監督の奥さんフランチェスカ、そして撮影監督アレクサンドル・ジュコーフスキーが抱く自分たちの技術への自負を感じた。 そもそも主役に細かい針の描写を必要とするハリネズミが選ぶばれていること自体がすでに困難な道を選択していると言える。 欲を言えば水の表現も実写との合成ではなく絵で表現して欲しかった。しかしすでに他の動きだけでどれだけの時間をかけて究極の域に高めているか測り知れないので、これは無理な注文だろう。 ノルシュテインなら水の動きをどう表現するのか、それが他の動きと組合わさることでどのように既存のシーンが変化していくのか、想像するだけでもワクワクしてしまう。 また何度か登場するの白馬は空想主である黒色の多いハリネズミと素晴らしい対比になっている。 前作同様ミハイル・メェローヴィチが音楽を担当しているが、こちらもノルシュテインが彼と2ヶ月かけて曲を一緒に創り上げる徹底ぶりである。 2K修復された画像の鮮明さは息をのむほどに美しい。 ノルシュテインの作品を観ていると作品創りにおいて時間と手間をかけることの重要さを改めて思い知らされる。 神が細部に宿ることで作品自体が哲学すら湛え幽玄の境地に達している。 お見事!

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