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東京タワー
2005年1月15日公開

東京タワー

1262005年1月15日公開

yab********

3.0

息子の1番きれいな3年間を独り占めして

 東京タワーが東京のシンボルの時代もあった。東京観光の一番の名所の座にずっと居座った時代もあった。でも、それは遠い昔の出来事である。  東京タワーが情景の中心に居座る珍しい作品である。大阪の通天閣が背景の作品は多い。だがいまどきなぜレトロと化した東京タワーなのだろうか。  人妻ブームである。人妻風俗が流行り、週刊誌では、ダメ夫に愛想をつかした人妻の浮気の記事が紙面を飾る。人妻が夫婦セックスレスの時代に溺れかけている。そんな幻想が辺り一面に蔓延する。  人妻はこの作品における東京タワーのようなものだ。かって”女子大生”という言葉が流行ったように、今は”人妻”という言葉が旬で輝いているように見える。しかし、実は盛りも何もない。もう何十年もの昔から、日活ロマンポルノだなんだで、人妻のよろめきはずっと語り継がれてきたのだ。そこに新しさなどはない。日本ではずっと人妻神話が繰り返されてきたのだ。妻は貞淑であることがあたりまえで、そこからはずれると、”人妻”という淫靡な響きをもった人種の仲間入りをする。この作品はその繰り返しをなぞらえたにすぎない。  江国香織の原作はその淫靡な内実にお化粧しただけだ。あえてセクハラ覚悟で言うと、結婚も子育ても経験していない女性の類稀な想像力の産物である。子供がいたら忙しくてこんな気持ちになる余裕がない、という大半の妻たちの意見を、ものの見事に無視した想像力である。しかしその想像力のわりには、描いている世界は、金持ちのボンボンの大学生と人妻の逆援助交際という風俗にすぎない。  江国香織の描く世界は、どう見ても逆オヤジの世界にすぎないのである。  東京タワーと人妻という、昔から相も変らぬシンボルが合わさって、相も変らぬ黒木瞳のよろめき演技がより一層陳腐化していく。この作品で黒木瞳のチープな演技を補ったのは、けっして同じ人妻役を好演した寺島しのぶではない。黒木瞳のセレブと恋に落ちた若者の、母親役を演じた余貴美子である。  「息子の1番きれいな3年間を独り占めして・・・。恋っていうのはねおちればいいってもんじゃないんだよ」。彼女がそう言って、黒木瞳にシャンパンを浴びせた瞬間、はじめてこの作品が、幻想から解き放たれて、地に足のついた現実が目の前にぱっと拡がったのである。

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