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タッチ・オブ・スパイス
2005年2月5日公開

タッチ・オブ・スパイス

A TOUCH OF SPICE

1072005年2月5日公開

noh********

5.0

ネタバレおいしいごはんとおいしい人生の作り方

10年後に、もう一度みたい。 わたしは、わたしを愛してくれている人に、ちゃんと愛情を注げているだろうか? あと、どれだけ時間が残されているか分からないけれど、ちゃんと大切に生きて行こう、見終わってそう思った。 ちゃんと生きていても、必ずしも正しい位置に駒が収まるとは限らない。ちっちゃな個人が懸命に正しい心持ちで暮らしていても、政治や宗教や、個人ではいかんともし難い大きな力に呑み込まれて、ぜんぜん違う場所へ運ばれたりすることってある。 日本人であるわたしは、幸い特段信じる宗教もなく、巻き込まれるような紛争もない。だから、ファニスや彼の家族のように、自分ではどうにもならない歴史の隙間におっこちて、それがなければ、うまく歩けたのに、という人生を甘受しなければならないということはない。それでも、ファニスのヴァシリスおじいちゃんのことばには 含蓄があり、わたしが生きて行くとき何かにぶつかった時のヒントになるものがたくさん詰まっていた。 こどもの時には分からなかったおとなの事情やややこしいことが、 だんだん分かってくる。じぶんがそこに追いついたとき、ああ、あの時のあの場面って、そういうことだったんだって、理解する。 だから、ファニスもサイメも、おとなになってからはトルコ語でもなくギリシャ語でもなく、英語でお話をする。どんな料理の手順だって、どこにお祈りをしたって構わない。相手を思う心があって、ろうそくに灯をともす老人の手に、手を添えるやさしさがあればいいのだ。たとえ、その小さな炎が風でかき消されても。 わたしは、ヴァシリスじいちゃんとファニスのように、香辛料が大好きで、旅先では 必ず香辛料屋さんを覗く。パリで必ず寄るイズラエルには、見たことのない色の、嗅いだことのない匂いの、ありとあらゆる香辛料がところ狭しと並ぶ。何に使うか検討がつかないものでも、気になったものでお財布が許すものであればとりあえず買ってみる。どの香辛料が、どう使うと引き立つかは経験で頭に入っていく。 ヴァシリスじいちゃんの香辛料考察は、うんうんと思うところがたくさんあった。見えなくても、その目に見えていないものが、実はすごく大きな力を発揮し、そのものに魅力を与えているのだ。嗅覚と味覚と記憶。 じたばた騒がず、あるがままを静かに受け入れる、そういう生き方もすてきだなと思った。逆風に立ち向かい、人生を強引に切り開く、そういう生き方もある。でも、わたしは、ファニスやヴァシリス、サイメのように、静かに人生を引き受ける、そういう生き方の方が、実はすごく強いのではないか、と感じた。

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