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海を飛ぶ夢
2005年4月16日公開

海を飛ぶ夢

MAR ADENTRO/THE SEA INSIDE

PG121252005年4月16日公開

fg9********

5.0

自然に覚えるんだ…涙を隠す方法をね……

 …あらすじは、解説のとおり。  最近観た『母の身終い』と同様に『尊厳死』がテーマで、実在の人物ラモン・サンペドロの手記『レターズ・フロム・ヘル』を元に映画化された作品だ。  ラモンは若い頃から船員となって世界中を巡っていたが、25歳の時に引き潮の海にダイビングして海底で頭を強打し、首の骨が折れて四肢麻痺状態になってしまっていた。  それ以降の28年間、兄夫婦・その息子・父親に介護して貰いながら過ごしてきた。  そんなラモンをハビエル・バルデムが演じているが、特殊メイクを施していたので解説を見るまで気付かなかった。  そんな彼は『尊厳死』の合法化を願って、それを支援する団体の女性・ジュネ、女性弁護士・フリアの力を借りて政府と闘ってきが棄却され続けていた。  広く国民に訴えようとしてテレビにも出演したが、それを見ていた同じく四肢麻痺状態の神父から、『家族の愛情が不足しているのでしょう。ラモンは自分が注目されたいのです。直接会って、人生は生きるに値するということを解らせてやりたい。』などと言われ、実際に神父が訪ねて来てラモンと議論を重ねるが、双方の意見は平行線のままに終始する。  この折に、献身的にラモンの介護に尽くしてきた心優しい兄嫁のマヌエラが神父に放った言葉は痛快だった。  『あなたたちは、やかましいのよ!』  話しを元に戻すと、ラモンの弁護士として現れたフリアは片足が不自由なように見えたが、実は彼女も脳血管性痴呆症という不治の病を抱えていて病状が悪化しつつあり、次にラモンの家を訪れた時には車椅子の身だった。  ラモンは口にペンを咥えて詩を綴っていたが、フリアはそれを本にすべきだとして兄嫁の息子に協力させて出版に向けて動き出す。  そんな最中、ラモンとフリアの心が一つに溶け合いキスを交わす仲になる。  そして、本が出版された暁には、二人共に『尊厳死』の道を採ることを誓い合ったのだったが、送り届けられた見本にはフリアからの手紙が挟まれていて、遂に彼女はラモンの前に現れることはなかった。  そう長くはない命が尽き果てるまで、生きることを決めたのだろう。  話しが長くなりそうなのでこの辺でやめるが、本ストーリーにもう一人の女性が登場する。  テレビでラモンを見て興味を抱き、突然会いにやってきた2児の子持ちのシングル・マザーのロサだ。  彼女は男運が悪くて、仕事も生きる希望も失いかけていたのだが、四肢麻痺状態でも懸命に生きているラモンから、生きる力を貰えると会いに来るのだった。  ラモンは、そんな彼女を一歩突き放して見ていたのだが、ロサはしばしば彼の世話を焼きに来る。  そして、いつの間にか二人の間の心が通い合い、ロサは『尊厳死』を肯定するようになり、ラモンからも愛されるようになり、『尊厳死=自殺幇助』を執行することとなる。  本作では、『尊厳死』を容認するかたちでストーリーが展開しているため、最後の最後まで『尊厳死』に反対している兄貴が可哀想で仕方がなかった。  テレビ出演の折に次のような質問があった。  『あなたは、なぜ、いつも笑顔なんですか?』  ラモンは答える。  『他人の助けに頼るしか生きる方法がないと、自然に覚えるんだ…涙を隠す方法をね……。』  この台詞にラモンの心情がすべて込められている。  家族から、他人から28年間もの長きに亘って助けられていても、ラモンからは彼らに対して何一つお返しすることが出来ないのだ。  自殺することも、何一つ出来ないのだ。  『尊厳死』の是非について意見を述べるつもりは毛頭ないが、ラモンが『尊厳死』を選択せざるを得ない気持ちが十分に伝わって来る重厚な作品だった。  でも、ラモンが『尊厳死』を遂行するために家を去る時の、兄貴の苦渋に満ちた表情にまたまた切なくなったことでもあった。

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