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ヴェニスの商人 (2004)

THE MERCHANT OF VENICE/Il MERCANTE DI VENEZIA

監督
マイケル・ラドフォード
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3.58 / 評価:174件

笑えないヴェニスの商人

  • g18******** さん
  • 2015年7月30日 12時25分
  • 閲覧数 2282
  • 役立ち度 2
    • 総合評価
    • ★★★★★

シャイロックを演じる上で絶対にやってはならないこと。それは客の同情を買うことです。

シャイロックは、シェークスピア作品の中でも最も演じるのが難しい役。というのは、ヴェニスの商人はその構成からして美しい「喜劇」にならなければならないのに、シャイロックがともすれば自身の境遇上観客に涙を催させてしまうからです。
そこでシャイロック役にはこの作品を悲劇にしないためにも、戯けたり観客に目配せをしたりして、舞台から一歩外に出て客と役との中間あたりに場を占めるという絶妙な演技が必要になってきます。道化役というと言い過ぎかもしれませんが、「可哀想だけど憎しみが先走って足元を掬われたドジな奴」ぐらいの印象を客に与えるのがベストなのです。ヴェニスの商人の主人公はアントニオです。それなのにシャイロックを劇団のエースが演じるのは、シャイロックの肩に作品の出来不出来がかかっているからにほかなりません。

この映画は悲劇です。あまりにも重いです。たしかにアルパチーノの演技は真に迫るものがありましたが、もとが喜劇なので、良さが殺されてしまうシーンが沢山あります。例えば裁判シーンは笑いどころを除いてしまったせいでなんとなくテンポがわるいしキレも無い。さらにその裁判でシャイロックが滅多滅多にやられてしまうので、あの美しく微笑ましいはずの痴話喧嘩を胸くそ悪い気持ちで見なければなりません。劇中所々に含まれるコントのような掛け合いもシャイロックの悲愴な表情のせいで死んでしまっています。セリフがまるで生きていない。なによりキリスト教徒たちを全く愛せない。彼らを愛せるのはシャイロックが涙を飲んで良いやられ役に徹することができた時だけなのです。そして胸の中の音楽をテーマにしたヴェニスの商人を楽しむには、観客がこの浮かれたキリスト教徒たちを愛せることが必須なのです。

映像音楽等他には文句のつけようがないので、これがヴェニスの商人のスタンダードだと思われてしまうのが怖い。あえてタブーを犯したこの映画ですが、改めて気付かせてくれました。やはりヴェニスの商人に涙があってはならない。シェークスピアがどういう意図で作ったかは知りませんが、ユダヤの人種差別問題など別の映画でやって欲しかった。この劇のテーマは「契約とそれに縛られない胸の中の音楽」です。キャラクター皆が馬鹿になって観客を笑顔にする作品です。悲劇的な境遇などそっちのけで大団円に向かって劇自体を見事に転がすシャイロックが理想のシャイロックなのです。

時代を経るにつれて人々の価値観も変わってきます。ある正義の影で別の正義が踏みにじられているといった世界構造を問題としてこの劇に持ち込むのも可能でしょう。そうした世界に対して皮肉を込めて「喜劇だ」ということも。しかしヴェニスの商人の役割は見に来た人々を笑顔で帰すことだと思うのです。難しいことを考えずただただ笑うための劇だと思うのです。シャイロックにはまだまだ頑張ってもらいたい。彼は誇り高きピエロでありこの「喜劇」の支配者なのです。

詳細評価

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