ドニー・イェン時代の到来
- lamlam_pachanga さん
- 2012年6月3日 18時38分
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- 総合評価
本作は05年製作の香港映画で、トニー・ジャーの『マッハ!』に触発されたドニー・イェンとサモ・ハンが作り上げた、壮絶なヴァイオレンス・カンフー映画です。
原題の『殺破狼(Sha Po Lang)』とは、中国に伝わる占星術(紫微斗數)で凶星とされる三つの星(七殺、破軍、貪狼)のことで、この星が並ぶ時、その世界は破滅に向かうとされます。これを下敷きに、今回、七殺にサモ・ハン、破軍にドニー、貪狼にサイモン・ヤムを配し、この三人の漢(おとこ)の果てなき闘いを、ドラマチックなストーリー展開に定評のあるウィルソン・イップが、実にエモーショナルに描き出します。
加えて、この映画は脇役に至るまで素晴らしい配役が為され、サモ・ハン配下の非情な殺し屋に呉京(ウー・ジン)を配し、サイモン・ヤムの三人の部下には、リウ・カイチー、ダニー・サマー、ケン・チャンの三人を起用。彼らはそれぞれに印象的な演技を披露し、特に台詞を与えられずに不気味な薄ら笑いを浮かべる呉京は出色の存在感。悪人面のダニー・サマーに心優しき父親を演じさせ、アイドル然としたケン・チャンを肝の据わった若手刑事に配するなど、ウィルソン・イップの配役は実に絶妙でした。
不思議なのは、ドニー、サモ・ハン、呉京による激しいアクションが用意されているにも係わらず、物語そのものは、青白い炎と言うか、どこまでも不気味な静けさに包まれていること。
香港警察の辣腕刑事・陳國忠(サイモン・ヤム)は、犯罪組織の首領・王寶(サモ・ハン)の有罪の証拠を握る証人を護送中、王寶配下の殺し屋・阿杰(呉京)の襲撃を受け、証人一家惨殺の上、自身も深い傷を負う。奇跡的に一命を取り留めた陳國忠は、唯一生き残った女の子を養女に迎えるが、自身に脳腫瘍が見つかり、余命幾許もないことを告げられる。それを知らされた華哥(リウ・カイチー)、阿琛(ダニー・サマー)、阿樂(ケン・チャン)の三人の部下は、陳國忠とともに王寶逮捕に執念を燃やす。そんな折、過激捜査で犯罪者に障害を負わせた過去を持つ馬軍刑事(ドニー・イェン)が着任。だが、正義感に燃える馬軍は、王寶逮捕のためなら違法捜査も厭わない陳國忠たちと対立してしまう・・・。
私は、ウィルソン・イップの過剰にドラマチックな映画はあまり得意ではないのですが、この映画だけは完璧にツボです(笑)
この映画はカンフー映画であり、ヴァイオレンス映画であり、犯罪映画でもあるのですが、その根底に描かれるのは、いくつもの父と子の物語。それは、サイモン・ヤムとその養女の物語であり、華哥とその父の物語であり、阿琛とその娘の物語であり、そして、サモ・ハンとその娘の物語。そしてその行間では、ドニーや呉京らによる、血なまぐさいアクションが繰り広げられるのですが、この香港ノワールとカンフー映画の世界観がここまで見事に融合するとは、ウィルソン・イップ、お見事です。
因みに、このパラレル・ワールド的姉妹編が『導火線 FLASH POINT』。覚えておいて欲しいのは、両作は映画ジャンル自体がまるで別もので、本作ではドラマ中心にアクションが展開するのに対し、あちらは、あくまでもアクションで観客を魅了することに主眼が置かれていること。両作をご覧になるなら、別ものとして捉えた方が混乱はないでしょう。
さて、本作のカンフー映画としての魅力を挙げるなら、やはりその二大クライマックス。特に、先陣を切るドニーVS呉京による裏路地の戦いは、久々に全身の血が沸騰し、鳥肌が立つのを抑えられませんでした(笑)勿論、サモ・ハンとドニーが激突するクライマックスも素晴らしいのですが、ドニーと互角に渡り合う呉京の登場は、あまりに衝撃的でした。
『SPL/狼よ静かに死ね』は、ようやく独自路線を見い出したドニー・イェン時代の到来を告げた映画であり、サモ・ハンが返り咲きを果たし、呉京を次代の武打星として認知させた傑作ヴァイオレンス・カンフー映画。見逃している方には、強くお薦めしておきます。
あっ、最後に小ネタですが、この映画の題字は、アンディ・ラウの書によるものです。
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