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忘れえぬ想い (2003)

LOST IN TIME/忘不了

監督
イー・トンシン
  • みたいムービー 7
  • みたログ 83

3.88 / 評価:48件

「温もり」と「厳しさ」

  • lamlam_pachanga さん
  • 2011年7月2日 2時00分
  • 閲覧数 555
  • 役立ち度 5
    • 総合評価
    • ★★★★★

本作の監督であるイー・トンシンは、今日の香港映画において、ジョニー・トーと並んで最もその手腕を評価されている監督です。このふたりの映画はこれまでもちょこちょこレビューしてきたので簡単にしますが、現在のイー・トンシンが香港映画屈指のストーリー・テラーであることは、疑いようのない事実でしょう。

そんな彼の出世作は、90年代屈指の名作として人気の『つきせぬ想い』ですが(私も大好きです)、あの映画に最も似た空気をまとっているのが、この『忘れえぬ想い』ではないでしょうか。つまり、過酷な現実へ立ち向かうために、周囲の人間の優しさに支えられるストーリーです。但し、これは別に『つきせぬ想い』に限った話でもなく、イー・トンシンの多くの映画(例えば『フル・スロットル』、『真心話』、『早熟~青い蕾』など)もそうなのですが。

では、その物語を紹介しましょう。

ミニバス運転手の恋人・マン(ルイス・クー)との結婚を控えるシウワイ(セシリア・チャン)だったが、ある日、マンを交通事故で失ってしまう。家族(チョン・プイ)や周囲の反対を押し切り、彼の子・ロロ(原島大地)を女手ひとつで育てていくことを決意した彼女は、彼の想い出がつまったバスを修理し、流しの運転手としてロロとふたりの生活を始める。しかし辛い現実の壁はそんな彼女にも容赦なく、その姿に見かねて手を差し伸べてくれたのは、マンの最期を看取った同僚・ファイ(ラウ・チンワン)だった。

ファンなら察しが着くかと思いますが、いかにもイー・トンシンらしい物語です(笑)

彼の映画の多くは、「温かみのある人情」と「辛く過酷な現実」が、必ず隣り合わせになっています。本作も例外ではなく、その両者の軸がどちらかに大きく傾くことはなく、涙と笑顔の場面を交互に差し挟みながら結末まで観客を連れて行きます。一言で言うなら、とても地味な映画です(笑)とは言え、決して観客を「強引に」泣かせたり笑わせたりすることはしないイー・トンシンの映画は、例えその筋書きが「王道(ベタ)」と揶揄されようと、私には非常に心地が良い。

イー・トンシンの映画には、その作風が確立された90年代~00年代初期にかけて、ほぼ定型化された特徴が見出せます。

彼の映画の主人公たちは、「必ず」現実の壁に直面し、それを独力で乗り越えようと奮闘(或いは逃避)することになる。そしてその努力が臨界点に近づいた時、その周囲の人間(友人、家族、恋人)たちは、「必ず」手を差し伸べてくれる。

要は、イー・トンシンの映画とは、常に「温もり(人情)」と「厳しさ(現実)」を突き合わせた物語だと言うことです。その結末は、時に「厳しさ(現実)」を強調するもの(『つきせぬ想い』)だったり、或いはその逆に「温もり(人情)」を感じさせるもの(『真心話』)だったりしますが、かと言ってそれは決して説教臭くもない。

的を得ているかわかりませんが、この、主人公や観客を「途中で見捨てる」ことはせず、最後まで「寄り添ってくれる」安心感を与えてくれる部分こそが、娯楽派が主流の香港にあって20年近くも変わらぬ人気を保っていられる秘密なのではないでしょうか(『ワンナイト イン モンコック』以降、その作風は「厳しさ」が増していますが)。

イー・トンシンの映画に欠けるものがあるとすれば、本作もそうなのですが、それは「意外性」でしょう。観客の予想を超える展開や、例えばジョニー・トーが得意とする「遊び心」などは、これっぽっちも感じられない。それはキャスティングも同じで、どこにでもいる庶民を演じさせれば東洋一のラウ・チンワンの起用も、蓮っ葉な女が似合うセシリア・チャンの起用も、子役の原島大地(香港ではこの映画で人気爆発)にしろ、皮肉を言うなら、どこか「優等生的」な側面は確かにあります(ただ全員名演ですけどね)。

観る人によっては、そのお行儀の良い態度が気に入らないと言う可能性は、勿論あるでしょう。ですが、出来ればそこまでシニカルにならずに、鷹揚な態度で接してくれることを望みます。イー・トンシンの映画に観客や現実への皮肉はなく、あれは多分、監督自身の良心の表れに過ぎないのだと思いますから。

これまでにも繰り返し述べてきましたが、やはり私は、この人の映画が大好きです。

詳細評価

物語
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