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立喰師列伝
2006年4月8日公開

立喰師列伝

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4.0

大真面目なバカで超一流のインチキ!

この作品、一言で言えば「大真面目にバカをやった」「超一流のインチキ」です。 民俗学者が書き遺した書物を紐解き、幻の「立喰師」を語るというのがこの作品の基本スタイル。戦後日本史の歴史年表を広げ、そこに架空の人物史を書きこんでいくような感じです。エンタメ作品ですが、解り易い「物語」しか理解できない、と言う人にはオススメしません。 さて、立喰師とは、早い話が無銭飲食犯のこと。 仕事を成功させるため、あらゆる手段を用いる「立喰いのプロ」と言えば聞こえは良いが、ただの無銭飲食。その立喰師と店主との、バカバカしくも壮絶な戦いを外から冷静に眺めるのが我々観客です。本人たちは大マジメでも、傍から見ていると面白い、というような状況ってありますよね?ソレです。 序盤では、終戦直後から60年代安保の時代を舞台に、立喰師の存在と理念の解説を。 中盤では、80年代前半のファストフード店を舞台に、解り易いエンターテイメントを。 終盤では、「失われた10年」に向かい始めた頃を舞台に、消え行く立喰師たちの姿を幻のごとく描き、戦後日本と共にあった彼らを伝説として昇華させる・・・。 21世紀に入り10年以上経った今、立喰師たちはどこで何をしているんでしょうか?まだ存在しているのでしょうか?何を喰ってるんでしょうか? さて、演出方法を見てみると、とにもかくにも劇中のエピソードのインチキ臭いこと。歴史的事実をもインチキ臭く描くことで、逆に立喰師の存在が現実的に見えるようになっています。現実と虚構をごちゃまぜにして、その境界を曖昧にし、無いものを有ると思わせ、有るはずのものを疑わしくしています。そういうカラクリ。 また、各所に毒を含んだパロディが多数登場し、苦笑いし、爆笑し、唖然とします。映像表現も斬新。パタパタアニメというか、割り箸人形劇というか、ありそうでなかった映像です。 劇中には個性豊かな立喰師、さらにはそれと対決する人達がたくさん登場しています。あの人が好き、というお気に入りの人物ができるかも。私は牛丼屋、ハンバーガー店の神山店長が好きです。 ちなみに、劇中のキャストは本職の役者の他、アニメ、漫画、映画業界の関係者が多数出演しています。スタジオジブリの名物プロデューサー、押井監督の弟子ともいえる監督、押井作品に楽曲を提供し続けてきた音楽家、有名漫画家など。よくもまぁ、こんなバカバカしい作品に出てくれたものです。 この作品、はっきり言って子供が見ても理解不能です。また、政治・経済・歴史・文化に対する興味も教養も無い人が見ても楽しめないでしょう。「ニュースは見ないし、新聞も読まないし、歴史は嫌いだし・・・安保闘争って何?」という人にはオススメしません。あの歴史的事件や出来事の裏に、こんな怪しげな連中が暗躍(?)していたなんて・・・と想像して楽しむ作品ですから、そもそも、その歴史的事件を知らなければ楽しめませんね。 押井監督は自作で度々立喰師を描いています。テレビアニメの「うる星やつら」、実写映画の「紅い眼鏡」などに登場。また、同名小説の「立喰師列伝」の執筆や、立喰師が登場する漫画の「ケルベロス×立喰師 腹腹時計の少女」の原作も手掛けています。各種押井作品を見ると、必ずと言ってよいほど食事シーンがあることに気がつくでしょう。監督、どんだけ食い意地がはってるんでしょうか。 ということで、本作は超絶で第一級の怪作です。しかし、それこそが魅力であり唯一無二の存在です!

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